拍手小話

※番号を押すとその小話に直行します。最新は1と2。

   






「墜落決定」

 それは、些細な不注意から始まった。
「ひゃあぁっ」
 がちゃん! とリビングスペースから派手な音が聞こえて、スコールは書類から顔を上げた。
「どうした?」
「あーん、ごめんなさいスコール〜」
 本にまみれて両手を合わせるリノア。どうやら、戸棚に押し込まれていた本を取り出そうとしてぶちまけたらしい。
「大丈夫か? 本にぶつけたりしてないか?」
 スコールが手を差し出すと、リノアはそれを掴んで立ち上がった。
「うん、それは大丈夫。……ひゃ!」
 足元で、ぱき、と何かが音を立てた。リノアも足を上げて悲鳴を上げる。
「ごめん、踏んだ!」
「良いよ、MDなんてそうそう壊れない」
 軽い調子でそう言うと、スコールは片膝を突いてMDを拾い集め始める。リノアも同じようにしゃがみ込み、手元を覗き込んだ。
「うわ〜、意外! スコール、音楽好きなんだ?」
「あぁ、まぁ人並みにはな」
「へぇ〜」
 目をきらきらさせてMDに書かれたスコールの字を追うリノア。
「そんなに意外か?」
「うん」
 リノアはとても素直に頷いた。
「スコール、今時の曲なんて興味ないと思ってた」
「クラシックの方が興味ないよ……」
 苦笑いするスコール。ラインナップを見たそうにしている彼女の手にMDを滑り込ませ、彼は本の回収に勤しむ。
 リノアは遠慮なく題名を確認する。
「ガルバディアのアーティストが多いね」
「たまたまだ」
「ふーん? あ、これ知ってる。わたしも好きなの!」
 そう言うと、リノアは輝くような笑顔をスコールに向けた。
「スコールとわたし、お揃いだね」
「……そうだな」
 本を棚に戻しつつ、スコールが素っ気なく返す。リノアの頬がふくれた。
「お主、リノアちゃんとお揃いは不満かー」
「はいはい、そんなことはないからそれ貸してくれ」
 スコールは何事もなかったかのようにMDを取り上げ、定位置であるプラスチックの籠に並べる。
 だが内心は全く平穏ではなかった。
(……畜生、可愛い)
 言っていることややっていることがやたらに可愛い。可愛すぎる。幼子の庇護欲をそそる感じではなく、ぎゅっと抱き潰して閉じ込めてしまいたい感じだ。あまりにも彼女が可愛くて、胃だか胸だか腹だかがじんじんしてくる。
「はい」
 ぽふ、と肩を本で軽く叩かれた。ふわりと何か甘い香りが漂う中、スコールは普通を装って本を受け取った。
「ありがとう」
 その一言で、本当に嬉しそうな笑顔になる。それが、リノアを非常に魅力的に見せていた。
(耐えろ、俺……!)
 努めて無表情を保ちつつ、スコールは順番通りに本を納めていく。リノアはつまらなさそうに唇を尖らせた。
 スコールはそっぽを向くと、こっそり溜息をついた。彼女は知らないだろう……自分が今、どれ程熾烈なバトルの最中にいるのか! だから、無邪気にしていられるのだ。というか、これで確信犯だったら自分が浮かばれない。
「なぁ、リノア」
 片付けが終わり、スコールは振り返った。リノアはラグマットで膝を抱えている。
「なぁにぃ?」
 不機嫌そうな声。全く、人の気も知らないで忙しいことだ。
「コーヒーでも飲むか?」
「コーヒー? ブラックは飲めないんですけど」
「俺も飲めないから安心しろ。どれが良い?」
 と、スコールはどこから取り出したのやらインスタントコーヒーの小袋をミニテーブルにぶちまけた。
「わ、何これ!」
 リノアの顔が一転して好奇心に輝いた。
「『カフェ・ドルチェ』ってシリーズ。偶然入ったショップに売ってたんだ」
 スコールが見やすいようにと小袋を広げてやると、リノアは目をきらきらさせてそれを取り上げた。ラテ、モカ、カプチーノ、キャラメル、バニラ、エトセトラ・エトセトラ。
「どれが良い?」
「キャラメル……や、バニラも良いな。あ、でもヘーゼルナッツも……」
「とりあえずはひとつな。俺はモカにする」
「……じゃあ、バニラ!」
「オーケイ」
 テーブルを片付けたスコールは、カップをふたつ用意する。一方は自身の愛用品、もう一方はほぼ新品の青いデミタスカップだ。
 スコールがカップを渡すと、リノアは笑顔で「ありがとう」と礼を言った。スコールはテーブルを挟んで彼女の対面に座り、カップに口を付けた。
(今日は失敗したな)
 緊張したのか、湯を入れすぎたようだった。ドルチェシリーズに必要な湯量は少なめなので、小さいコーヒーカップの方が実は都合が良い。
 リノアはふふっと小さく笑った。
「何だ?」
「ん、意外だな〜って思って。スコールはきっとコーヒーが好きなんだろうなとは思ってたけど、まさかブラックが飲めないとは思ってなかったから」
「悪かったな、ご期待に添えなくて」
 スコールは鼻を鳴らしてみせる。
 スコールだって、飲めるものならブラックが良いと思う。大の男が、ミルクも砂糖も入れないとコーヒーを飲めないなんて、何だか格好悪い。
「ねぇ、スコール。モカってどんな感じ?」
「ココアが入ってる」
「ちょっと頂戴?」
 リノアはカップをテーブルに置き、スコールへと両手を伸ばした。スコールは少しの間固まって……そっと、彼女の手に自分のカップを渡す。リノアは律儀にカップを回し、スコールと同じところへと唇を寄せた。
(?!)
 スコールはぎょっとする。知ってか知らずか、リノアはふと微笑んだ。
「……間接キス。うふふっ」
「…………」
 苦虫を噛み潰してよくよく味わったような心境で、スコールはがっくりと首を落とした。
(あぁ、神様。この可愛い小悪魔をどうにかしたいんですが押し倒しちゃっても良いですかもう?!)

 どうも確信犯でやっていたらしい目の前の恋人に、欲情という名の殺意を覚えたある日の午後。

End.



「撃墜用意」

 それは、些細な不注意から始まった。
「ひゃあぁっ」
 がちゃん! とリビングスペースから派手な音が聞こえて、スコールは書類から顔を上げた。
「どうした?」
「あーん、ごめんなさいスコール〜」
 床に座り込み、リノアは本にまみれて両手を合わせる。
 本当に些細なことだったのだ。いつもの通り、恋人の仕事が終わるまで本でも読んでいよう、と戸棚に手を伸ばしたところ、思った以上にぎちぎちに押し込まれていた本が棚ひとつ分丸々出てきてしまった。おまけにその上の棚に入っていたプラスチックの箱まで落ちてきて……この惨状、である。
「大丈夫か? 本にぶつけたりしてないか?」
 スコールが手を差し出すと、リノアはそれを掴んで立ち上がった。
「うん、それは大丈夫。……ひゃ!」
 足元で、ぱき、と何かが音を立てた。リノアも足を上げて悲鳴を上げる。見れば、箱に入っていたのだろう色とりどりのMDが足元に散っていた。
「ごめん、踏んだ!」
「良いよ、MDなんてそうそう壊れない」
 軽い調子でそう言うと、スコールは片膝を突いてMDを拾い集め始める。リノアも同じようにしゃがみ込み、手元を覗き込んだ。
「うわ〜、意外! スコール、音楽好きなんだ?」
「あぁ、まぁ人並みにはな」
「へぇ〜」
 目をきらきらさせてMDに書かれたスコールの字を追うリノア。
「そんなに意外か?」
「うん」
 リノアはとても素直に頷いた。
「スコール、今時の曲なんて興味ないと思ってた」
「クラシックの方が興味ないよ……」
 苦笑いするスコール。リノアが手元を覗き込むと、彼女の手にMDを滑り込ませ、彼は本の回収に勤しむ。
 リノアは遠慮なく題名を確認する。スコールの字はちょっと右肩上がりで、その性格に良く似てきちんと列んでいる。
「ガルバディアのアーティストが多いね」
「たまたまだ」
「ふーん?」
 列ぶ曲名は、リノアが良く知るロックバンドのものも多い。意外と互いの曲の好みは近いらしい。これはリノアにとって非常な収穫だ。
「あ、これ知ってる。わたしも好きなの!」
 リノアは何だか嬉しくなって、輝くような笑顔をスコールに向けた。
「スコールとわたし、お揃いだね」
「……そうだな」
 本を棚に戻しつつ、スコールが素っ気なく返す。リノアの頬がふくれた。
「お主、リノアちゃんとお揃いは不満かー」
「はいはい、そんなことはないからそれ貸してくれ」
 スコールは何事もなかったかのようにMDを取り上げ、定位置であるプラスチックの籠に並べる。
(……むぅ、この淡泊男)
 何だって、この男はこう反応がないのか。
 自分で言うのも何だが、母親譲りの顔形はかなり可愛い方だとリノアは思う。その上で、努力もしているのだ。スコールは化粧や香水があまり好きではないようなので、差し当たって勝負処は肌艶の良さと清潔感だと思われる。身体の締まりは言うまでもなし。
 もっと努力が必要だろうか、そんなことをつらつらと思いながら、リノアは足元に残ってい文庫本を拾い上げた。
「はい」
 ぽふ、と本でスコールの肩を軽く叩く。スコールは当たり前のように冷静に本を受け取った。
「ありがとう」
 その一言が本当に嬉しくて、リノアはついつい無防備な笑顔になる。だが、スコールは無表情を保ちつつ、順番通りに本を納めていく。
 リノアは今度こそ唇をへの字に曲げた。
(ふんだ、もう知らないっ)
 ラグマットで膝を抱えるリノア。何だか、悲しくなってきた。スコールにとって、わたしって何なの――?
「なぁ、リノア」
「なぁにぃ?」
 不機嫌そうにリノアは返す。全く、人の気も知らないで暢気に声かけてくれちゃって。
「コーヒーでも飲むか?」
「コーヒー? ブラックは飲めないんですけど」
 リノアは厭味っぽく返す。恐らく、スコールの部屋にはコーヒーに入れるミルクもシュガーも常備されてはいないだろう。
 スコールがふと苦笑する気配がした。
「俺も飲めないから安心しろ。どれが良い?」
 と、スコールはどこから取り出したのやらインスタントコーヒーの小袋をミニテーブルにぶちまける。リノアの顔が一転して好奇心に輝いた。
「わ、何これ!」
「『カフェ・ドルチェ』ってシリーズ。偶然入ったショップに売ってたんだ」
 スコールが見やすいようにと小袋を広げてやると、リノアは目をきらきらさせてそれを取り上げた。ラテ、モカ、カプチーノ、キャラメル、バニラ、エトセトラ・エトセトラ。どれもこれも、想像するだに美味しそうだ。
「どれが良い?」
「キャラメル……や、バニラも良いな。あ、でもヘーゼルナッツも……」
「とりあえずはひとつな。俺はモカにする」
「……じゃあ、バニラ!」
「オーケイ」
 スコールは軽く頷き、テーブルを片付けて簡易キッチンへ向かう。やがて、カップをふたつ持って戻ってきた。一方は自身の愛用品、もう一方はほぼ新品の青いデミタスカップだ。勿論、デミタスカップがリノア用だ。
 スコールがカップを渡すと、リノアは笑顔で「ありがとう」と礼を言った。スコールはテーブルを挟んで彼女の対面に座り、カップに口を付けた。その顔が、僅かにしかめられる。
 リノアもカップに唇を寄せた。バニラの甘さと香気が、ふわりと胸を満たす。デミタスカップくらいが量としてちょうど良いようで、甘すぎず薄すぎず、理想的な状態だった。
 リノアはふふっと小さく笑った。
「何だ?」
「ん、意外だな〜って思って。スコールはきっとコーヒーが好きなんだろうなとは思ってたけど、まさかブラックが飲めないとは思ってなかったから」
「悪かったな、ご期待に添えなくて」
 スコールは鼻を鳴らしてみせる。
 ブラックコーヒーが飲めなくて格好悪い、とでも思っているのだろうか。そう思うと、何だか可愛い。
「ねぇ、スコール。モカってどんな感じ?」
「ココアが入ってる」
「ちょっと頂戴?」
 リノアはカップをテーブルに置き、スコールへと両手を伸ばした。スコールは少しの間固まって……そっと、彼女の手に自分のカップを渡す。リノアは律儀にカップを回すと、スコールと同じところへと唇を寄せた。少し薄い、ココアの入ったコーヒーの味。
 スコールは僅かに目を見張る。リノアはふと微笑んだ。
「……間接キス。うふふっ」
「…………」
 苦虫を噛み潰してよくよく味わったような顔で、スコールはがっくりと首を落とした。
(呆れたっぽい? うーむ、これはあざとかったかな? どうしたらハグハグしてくれるかなー。キスしてもらえるかなー。もっと研究の必要アリ、かな)

 なかなかオチてくれない恋人に、やきもきしてしまうある日の午後。

End.



「帰還」

 眠い。
 とにかく、眠い。
 帰還報告を済ませたスコールは、ふらふらの身体を叱咤して自室に戻ってきた。気を抜けば潰れてしまいそうなのを必死で堪え、ガンブレードのホルダーを外し、ジャケットを脱ぎ捨て、下着だけになってベッドに倒れ込む。
 ふわりと心地良い匂いに包まれる。
(あ……リノア)
 スコールはすっかり幸福になって、身体を丸めた。

 部屋に戻ったリノアは、それはもう驚いた。
「……何これ」
 ひどい散らかり具合だった。ガンブレードもジャケットもズボンも床に散乱している。何のことはなく部屋の主が帰ってきたというだけの話なのだが、……普段の彼を見慣れているととてもじゃないがなかなか受け入れがたい惨状だった。
 さてこの惨状を作り出した本人はどこにいるやら。ジャケットを拾い上げてリノアは部屋を見回した。ソファに転がっていないのは一目瞭然。水音はしない。じゃあ寝室か。申し訳程度にノックして、リノアは寝室の扉を開けた。
 果たして、スコールはそこにいた。
「また何と言う格好なのよ〜……」
 がっくりと肩を落とすリノア。それはそうだろう、丸められた身体を覆っているのはTシャツと下着だけ。しかもシャツは片袖が抜けている。美人が台なしだ。
(お疲れ様……)
 余程疲れていたのだろう、シャワーを浴びた形跡すらない。ピローケースやシーツが汚れてしまっている。原因はきっと、髪や肌に付いてきた砂漠の砂だ。彼が起きたら、ピローケースもシーツもリネンルームに持っていこう。
 だがその前に、このTシャツはどうしよう、とリノアは考えた。半脱ぎ状態とはいえ、脱がせるのはひと手間だ。着せてしまう方がまだマシだろうか? そう思ったリノアがスコールの肩に手をかけると、スコールはふと目を醒ました。
「あ、ごめんね? 起こしちゃった」
 スコールはぼーっとリノアを見つめる。そして、ふわっと微笑った。
「りのあ」
 寝ぼけた舌足らずな声が彼女を呼び、2本の腕が甘えるように引き寄せる。
「きゃうっ」
 咄嗟に対応出来なかったリノアの身体が、スコールの上にのしかかる。だが寝ぼけた身にはダメージなどないようで、スコールはとても満足そうに頬を擦り寄せた。
 さり。
(?)
 さりさり。
 何かがリノアの頬を擽る。
(何の感触?!)
 ……いや、わかっている。わかってはいる。男性には当然ある、アレだ。リノアが認めたくないだけで、それは当然、スコールにだってある筈。
 苦労して首を巡らせると、やはり。
「ひげ……」
 不精髭、で良いのだろう。スコールは体毛が薄い為に目立たないが……確かに、細い髭が生えていた。
「んー……」
 スコールが不満そうに唸りをあげ、薄目を開ける。その目は、リノアがもぞもぞ動き続けることに対しての抗議の念が込められていた。間違いない、彼は甘えている。リノアは良い子良い子と肩を叩き、口付けた。
「スコール、おかえり」
「……ただいま」
 覚醒してきたらしいスコールは、先程より幾分はっきりした声を発する。
「夢でリノア捕まえたら、現実になった……」
「それはね、スコールくん。あなた現実にわたしのこと取っ捕まえたからだよ」
「…………?」
 スコールはゆっくりと数度瞬いた。
「……悪い、いつからいた?」
「んん、10分くらい前からかな」
「気付かなかった」
 リノアを解放し、スコールは起き上がる。リノアはお疲れ様、と囁いて彼の隣に座る。スコールは頭を掻こうとして、半脱ぎのシャツに気が付いた。
「……………………ものすごい格好だな、俺」
 最早身嗜みレベルの問題ではないのは、一目でわかった。無性に眠かったとはいえ何たる様だ。とりあえずシャツの片袖を通し直し、惨々たる様相のベッドを見回してがっくりと首を落とした。リノアはくすりと微笑う。
「スコール、スコール。一先ずお風呂入っちゃって? その間にリネンルームから綺麗なやつもらってくるから」
「いや、良い……風呂上がってから自分で行くよ……自業自得だし」
 ふらふらと立ち上がり、スコールは大欠伸。リノアはますます笑いながら、手を振って見送った。

 酷い状態だな、とスコールは鏡を見て思った。
 髪はばさばさで顔色は悪く、寝不足の目は濁っており、不精髭が顎を薄く覆ってむさ苦しいことこの上ない。
「きったねぇ……」
 自分でもそう思うのだから、女子であるリノアからは尚更そう見えただろう。
 一先ず全身洗ってしまえ、と頭からシャワーを浴び、目をつぶったまま手探りでシャンプーを探す。果たして目当てのものは見つかったが……おかしい、いつものシトラスオーシャンではなくフローラル系の匂いがする。
(間違えた)
 リノアのだ、これは。
 しかしもうどうしようもないので、さっさと洗い流す。洗顔料は間違えないように今度こそちゃんと目視で確認した。一度洗い流し、シェーバーを当てる。もう一度しっかり洗い流すと、大分さっぱりとした。
 ボディソープをたっぷり塗りたくって泡を立てると、腕や背中がひりひりする。多分、自分が気付かなかった傷があるのだろう。後で傷用の軟膏を塗っておかないと。そう思いながらスコールは湯舟へ浸かる。
「……帰って来たなぁ」
 ぼぅっと天井を見上げ、ふぅ、と溜息をつくスコール。全身が、安心感で弛緩する。
 ほっとしたら腹が減ってきた。調子を悪くする前に何かを腹に入れようと、スコールはバスルームを後にする。
 ラフなシャツと綿パンを纏ったスコールは、リノアが部屋にいないことにすぐに気付いた。寝室を覗けば、案の定リネン類がない。
(自分で行くって言ったのに)
 だけど、その細やかな労りが嬉しい。スコールはほんのり笑みを浮かべ、冷蔵庫からパックジュースを取り出した。コップに注ぎ分け、リビングスペースのソファに沈み込む。
 実を言うと、やらなければいけないことはある。司令室には、どうしても自分が決済を下さなければいけない書類が溜まっているだろう。モンスター相手に酷使したガンブレードも手入れしてやらないといけない。今回の任務で使い尽した物資があったからその発注手配もしなくてはならないし、経費計算も確認しておかなければいけない。
 ――でも、ちょっと、後回しにしても良いかな?
「ただいまー、スコール。……あれ?」
 真っ白のリネン類を持って戻ってきたリノアの目に入ったのは、ソファで眠り込んでいる恋人の姿。リノアは慈愛の満ちた笑みを浮かべ、シーツをふわりと広げた。
 ミニテーブルには、ジュースの入ったコップが2つ、置かれていた。

End.