魔女の騎士は未来の夢を見るか?

Act.6 戦場を駆け抜けて


 乱戦模様の撮影は、流石のライト達も参加させてはもらえない。
 演者達はわらわらとモニターの前に集まり、まじまじと覗き込んでいた。彼らの動きに合わせた声当てや、アップでの撮影の為だ。
「ひゃー、すげぇ! 大した人数いないはずなのにめっちゃ多く見える!」
 ティーダはモニターと実際を見比べ、その差異に目を丸くする。カメラマンは得意げにモニターを指し示す。
「画角と配置を上手く工夫すると、こんなふうに撮れるんですよ」
「おぉ〜っ!」
 4等分された4つのモニターに映るのは、全て違う角度からのものだ。広大な谷で、大勢の傭兵と彼らが守る魔女を追ってきた大国の軍との正面対決。魔女の騎士となったラファールは、魔女ウィッカを連れ剣林弾雨の中を活路を求めて駆け抜けていく、そういうシーンだ。
 現実は、小高い丘二つに挟まれた、からからに渇いた細い川の底だ。エスタでは1年の内、ある一時期だけ盛大に雨が降る頃があるが、この川はその時期だけ水が流れる川なのだ。そこに展開しているのは、傭兵団扮するバラム・ガーデンからのSeeD候補生と、追っ手の軍扮するガルバディア・ガーデンからの護衛官候補生だ。ほぼ同数のこの2グループを、多勢に無勢、に見せかけるカメラテクニックは、正に脱帽物である。
 現在、午前11時少し前。気温が最高潮に達する寸前だ。カメラに映る少年少女は、ウイッグの具合を確かめたりクーリングスプレーを背中や胸に噴きかけたりしている。
 1番のメインカメラには、傭兵団の青年が銀色の髪をなびかせて佇む姿が映っている。血と泥で汚れた団長は、片目をやられ首を斬られかかっても、それでも剣を取り血路を拓こうと足掻くのだ。
「あーいたいたいた! これ俺だ!」
「ちょ、フィリオン役の兄ちゃん武器持ちすぎじゃね!?」
「この銀髪の、誰役なのかな……」
「あんただろう、セシル」
「えぇっ、でもこの子、女の子みたいだよ!?」
「……一度鏡を見てこい」
 男共ははしゃいでいる。まるで大きな子供だ。その中で、ライトは傷だらけでぼろぼろの団長――つまり、ライト自身の姿――に仕立て上げられたスコールの姿を注視していた。
 ざざざ、とモニター横の機材がノイズを吐き出した。SeeD達の通信を聞けるよう、特別に融通してもらったラジオスピーカーだ。
『しれいかーん、暑くないですかー?』
『暑いよ。誰だよ包帯じゃなくてかったいサラシ用意した奴』
『だってそうでもしないとアイサイト撮影用のカメラ透けますよー?』
『あれ、眼帯でも良かったんじゃね?』
『知らんし。そこは監督の趣味だろ?』
 傭兵団扮するSeeD達は好き勝手にお喋りしている。スタッフ達は苦笑していた。この部分は後で声を当てるのだが、それにしたってお気楽なことだ。
 スコールが、手首に装着したマイクに顔を寄せた。
『通信テストー。聞こえてる奴右手で武器持ち上げて。おーい、第3ブロックの左端の槍の奴、隣の周波数確認してやってくれ。……ありがとう。テストもう1回な。聞こえてる奴は右手で武器持ち上げて、振って。こらオーランド、ふざけない。面白くないぞ。ジェラ、人工内耳の電源は入れたな?』
 2番モニターに映る少女が、にこにこしながら手を振っていた。彼女だけはどうしてもイヤホンや人工内耳用の機材を入れたポーチが映ってしまう為、バラム・ガーデン側の候補生でありながらハイテク装備を持つ軍側の役だ。現実のSeeDとは違い、傭兵団はローテクなのである。
『じゃあ、最終確認だ。B・Gトレニー、配置オーケィ? よし。サラマンダー(G2側指揮班)? オーケィ。ウンディーネ(バラム側指揮班)? オーケィ。セイバー(救護隊)? オーケィ』
 スコールが声をかける度、雄叫びと武器を叩いて囃す音が響く。
『……テンカウント後、コード・レッド(戦闘状態)に移行。終了合図はSeeDキニアス。彼が空砲を鳴らした後、トレニー・SeeD問わず速やかにコード・ブルー(待機状態)へ移行すること。訓練中は各自適度に休憩を挟むように。また、受傷・体調不良時は軽度重度自覚他覚問わず離脱し、セイバーまたは担当教官に連絡、治療及び続行可否の指示を受けること。尚、B・G一方が全滅した場合、即座に訓練中止とする。以上、何か質問は?』
 丘の上のスコールが全体を見回す。誰も何も言わない。
『これからの2時間は、お待ちかねの多対多ランダムバトルだ。チーム戦じゃないから、個々人好きにしてくれたら良い。勿論チーム組んでも良いぞ。但し、同じ衣装の相手とは戦わないこと。同じように違う衣装の相手と組まないこと。周囲も良く見て、怪我人や病人が出たらすぐに連絡すること。それと俺が通り抜けたらウイッグとかの変更を頼むな。人数が少ないから、衣装なんかにも出来るだけ変化をつけて、俺がだだっ広い戦場抜けたように見せかけてくれ』
 応、と拳が舞った。
「皆さん、暑い中すみませんけどよろしくお願いしまーす!」
 立ち上がった監督が声を張り上げた。候補生達は思い思いに応えを返す。
 そして、静寂。
 スコールを背後から見下ろすように配置されたメインカメラに、すっとクラッパーボードが映った。シーンナンバーを数秒映し、かちんっ、と鳴らされてすぐに引っ込む。
 スコールは、腰に下げたロングソード――ライトが選んだ武器だ――を音もなく引き抜き、腕を真っ直ぐ横に伸ばした。砂漠の太陽を受け、ぎらりとソードが輝く。
『スタート、テンカウント!』
 スコールが声を張り上げる。
 ティーダはスコールのカウントダウンに合わせ、口の中で共に呟いていた。短いカウントダウンだというのに、ボルテージは静かに上がっていく。
 ロングソードが、頭上に差し上げられた。
『3、2、1……Code:RED(戦闘開始)!!』
 宣言と共に、勢い良く振り下ろされる刃。
 鬨の声。そして、流れと渦が出来上がる。
「すげぇ……」
 雄叫びと靴音が作り出した腹に響く轟音に、ジタンがごくりと喉を鳴らした。
『「クラウド」、右へ!』
『了解!』
 幅広のバスタードソードが空を斬る。
『エリアHの3、発破行きます。SeeDキニアス、号令を』
『はいはい、ちょーっと待って……今だ、行けっ!』
 傭兵団が陣取っていた丘の一部が爆ぜた。2番カメラのモニターに、派手に泥が飛び散る。纏い付くように若草色がカメラレンズを隠し、その一瞬後には視界がクリアになっていた。誰かがマントでさりげなく拭いてくれたらしい。
 その最中、スコールはカメラに映らない位置でウイッグをすげ替えて衣装を整えた。先程は開始の号令をする為に団長であるライトを模していたが、今度はラファールだ。面倒なことこの上ないが、ラファール役であるティーダと一番体格が似通っているのはスコールだったのだ。
『なぁ後ろから見えてないか?』
『ばっちりですよ!』
『サラシも?』
『見えません、大丈夫』
『ありがとう。……行けますか、「ウィッカ」』
『は、はいっ』
 緊張気味のユウナ・オリンピアの声が、ラジオスピーカーから零れる。ティーダは無意識に身を固くした。
 何故、ユウナがスコールといるのか。それは彼女の意思に他ならない。
 おしとやかな外見に対して、ユウナは好奇心旺盛で割合にお転婆な性格だ。その為彼女は、スコールを拝んで拝んで拝み倒して、ついでに監督も説き伏せて、ティーダに手を引かれて戦場を駆け抜けるウィッカを自分でやることになったのだ。その時の彼女の勝ち誇った顔と言ったら! 今思い出しても脱力してしまいそうで、彼女のスタントをやる筈だったクレアと目を合わせて苦笑を交わすティーダである。
『台本では途中で一度手を離すようになってますね』
『あ、はい』
『手を離すタイミングはこちらで決めます。その時だけ手を緩めますから、それ以外では決して離さないように注意して下さい。怪我の元です』
『わかりました』
『後、「ラファール」にしては変な恰好してますけど、笑わないで』
『そんなこと言われたら逆に笑っちゃいますよ!』
 無駄に真面目なスコールの声に次いで、あははっとユウナが笑う声。何か起こる訳は決してないと信頼していても、やきもきするのが彼氏心というものである。
『じゃあ、行きますよ。……SeeDレオンハート、チャージ(突撃)!』
『『Welcome!』』
 突風が、吹き荒れた。

「ティーダさん、これどうぞ。今レオンハートさんに付けてもらってるアイサイトカメラの絵なんです」
 ルークがティーダに渡したのは、サンシェードタイプのディスプレイだった。
 少し中を覗くと、縦揺れ横揺れの酷い映像が映っている。微かにわぁわぁと騒ぐ音もする。どうやらテンプルのどこかにスピーカーがついているようだ。
「監督、何スかこれ?」
「良かったら、映像確認しておいたらどうだろうと思って。彼、ティーダさんのスタントとして走り回ってる訳だし」
 ユウナさんのことも気になるでしょ。そう言われてしまえば、ティーダは即座にディスプレイを身に付けた。
 耳元で荒い呼吸音が聞こえて、背筋がぞわっとする。あぁ、走ってるのか――そう理解したのは、画面の端にちらちらと剣が映っていることに気付いてから少ししてからだ。
『おー、いいんちょ!』
 フレームインしてきたのは、「ルーネス」だ。まだ幼いルーネスのスタントは、比較的身長が低く華奢なセルフィが担当している。
『動き大人しな』
『ツレがいるからな』
「ルーネス」は暫し並走し2人を援護した後、襲い掛かってきた軍人と剣劇を見せる。細身の剣と短剣での剣舞は、ルーネス自身の物とは少々違う。だが実力に裏打ちされた力強さと魅力があった。
『エリアCの5、LMチャージ(地雷踏むよ)!』
テイケアッ(気を付けろっ)
 無造作に踏まれた「ルーネス」のステップに、地面が爆ぜた。
「うわっ」
 嫌という程の臨場感に、ティーダが肩を聳やかせる。「ルーネス」は爆風に乗って、ぽーん、と放物線を描いた。くるりと宙返りをした彼女は、そのまま煙に紛れてフレームアウトしていく。
「ラファール」は戸惑うようなステップの後、爆ぜた地を避けていくことにしたようだ。ぱっと振り返り、「ウィッカ」の様子を見る。演技でなく怯えた顔の彼女を引き寄せ、肩を叩いて視線を前方へ戻した。
 土煙の向こうで、斜面を滑り落ちた「バッツ」を、「フィリオン」が弓で援護している。そこに「ジタン」が操りそこなった暴走チョコボが駆け込み、「バッツ」を首で掬い上げてフレームアウト。ティーダの耳元で、ティーダの物ではない笑い声が弾けた。
『先輩、笑ってる場合じゃないですって!』
『だってあれシュールにも程があるだろ! 見たか今のチョコボ!』
『はいはいはい、後で好きなだけ笑ってくださいよ! 足止めないで!』
『わかってる、っつの!』
 飛び込んできた銃剣の穂先を、「ウィッカ」を抱えて辛うじて避ける「ラファール」。バランスを崩した彼を援護しに「セシル」が飛び込んできた。彼女――セシルの見立て通り、彼のスタントは女性だった――の顎の動きに、「ラファール」は体勢を立て直してひた走る。
『エリアGの2、チャージ! 行きますよ、「ウィッカ」!』
 スコールがそう言ったその時、するり、と「ウィッカ」の手が抜けた。「ラファール」はたたらを踏むと、慌てて彼女を振り返る。そしてへたり込んだ「ウィッカ」に駆け寄り、肩を抱いて立ち上がらせようとした。ユウナの唇が、「ティーダ」、と動いていた。
『覚悟!』
 飛び込んできた軍人は、目前に迫っていた。「ラファール」は剣を振るう。
 ギィン! 
 普段とは違う粗い動きで、「ラファール」は切っ先を弾いた。遠心力でくるりとその場を回り、「ウィッカ」の腕を支えて立ち上がらせる。
 そこに、ノイズと共にアーヴァインの通信が割り込んだ。
『やばいよスコール。G全滅寸前』
『残数は?』
『3』
『チッ……思ったより保たなかったな』
 ティーダの頭は疑問符でいっぱいになった。どう見ても沢山人がいるのに、何故後3人で「全滅」なのだ?
 どうやら他のメンバーも同じ疑問を持ったらしい。元軍人のクラウドが「部隊の3割が死亡もしくはその他の原因で戦闘不能になれば、その部隊は『全滅』と見做される。そういう決まりなんだ」と皆に解説していた。
『ごめんよ、うちの子達寒冷地仕様だからさ』
『まぁ仕方ない、時間が時間だ。予定繰り上げるぞ、病人増やす訳にいかない』
『了解』
「ラファール」はまた走り出した。息も絶え絶えな「ウィッカ」を何とかティナが確保した岩場の陰に押し込み、囮となったライトを探すべく天を仰ぐ――これで、スコールがやるべき部分は殆どが終わった。
『残数2!』
『わかってる。これから戻るから、もう少し!』
 アーヴァインの焦りを含んだ声に押され、スコールは剣を握り直す。
『チャージ、エリアフル!』
 今回の訓練では、模擬戦闘範囲を8つにエリア分けし、更にそれを5つに細分した。狭い範囲と言ってもガーデンのグラウンドに比べれば何倍もあるような広い場所だ。それに対してのこの宣言。スコールは一体何をするつもりだ。
『吹っ飛ばされないように気を付けろよ!』
 言うが早いか、スコールは駆け出した。
(速い!)
 アイサイトカメラという限定された情報だけでも、彼の身は軽いと知れた。目まぐるしく変化する視界に、これが彼の本領なのだと思い知る。通りでセルフィが「動き大人しな」と言う訳だ!
「ランティス、ズームせぇズーム!」
「でもカントク、」
「あんな美味しい素材、無駄に出来るかっ! 顔はCGですげ替えろ! あぁあ、2カメ撮り逃しなや!!」
 呆然としているティーダの耳に、スタッフ達のがなり声が飛び込んでくる。
『ガルバディアの子に特別ミッション、いいんちょを捕まえろ〜! 捕まえられたら成績にイロ付けてあげちゃう♪』
 セルフィがそんなことを言えば、スコールは「勝手なこと言いやがって!」と大笑いしながらジグザグに駆け回る。彼の足元が弾けるのは、アーヴァイン・キニアスの仕業だ。スコールの動きを予測し、ギリギリの位置を撃つ彼の射撃能力も凄まじい。
『おいアーヴァイン、大概にしてくれよ、っとぉっ!』
 足を掬い上げようと突き出された槍を飛び込み前転で躱し、頭部に迫る剣を切り上げて弾き飛ばす。その動きを追ってふわりとマントが舞い広がり、視界を塞いだ。それが取り払われた先には2本のナイフが彼の首を刈り取らんばかりの勢いで突き出され、スコールはその持ち主の股座を滑り潜って回避する。派手な土飛沫が上がった。
『あぁっ、卑怯者!』
『つか何でそこ通れちゃうんですか!』
 劇場の大画面で見ればなかなかの迫力があっても、実際に目にすると馬鹿馬鹿しいことこの上ない。爆笑する候補生達に舌を出して、スコールはとうとう目的地である最初の丘の麓に戻ってきた。
 半ば転倒するように滑り込み、剣を投げ捨てウイッグを外すスコール。その顔に、リノアがタオルを押し付けた。
『んぶっ、リノアもうちょっと優しく……』
『時間無いんでしょうが。ほらメイク直すから』
 リノアは顔の汚れを適度に拭うと、スコールの整形に取り掛かる。主に血糊等での汚しだ。遠景で見るに耐えればそれで良い。
『動くんじゃないわよ〜』
『「へたれ」にするのだけは勘弁な』
『おだまり! そう思うんなら!』
 べち、と額を叩くリノア。彼女は手荒く銀髪のウイッグを被らせると、立ち上がるスコールの動きに合わせて衣装にブラシをかけていく。腰のベルトにかけた留め金を外してズボンを延ばし、衣装を整えたら――。
『GO!』
 腰を叩き、リノアはスコールを丘の方へと押しやった。彼女のサイドでサポートをしていたSeeDがスコールへロングソードを差し出す。スコールは感謝もそこそこにそれを乱暴に掴むと、一気に斜面を駆け登る。
 頂上に着く頃には、流石のスコールも息が上がっていた。それはそうだろう、何しろ彼は2時間近く走りっぱなしだった。つう、と汗が頬を伝う。足元をほんの僅かぐらつかせ、ロングソードが地を掠って乾いた金属音を零す。
 ぴくっ、とその肩が震えた。何かに惹かれるように、風の吹く先に目線を、向け、て――。
(あ)
 銃声が響いた。胸元に血柱が立つ。
 視界のど真ん中に、アーヴァイン・キニアスの構える狙撃銃が光っている。
 空がカメラに映った。
「うわあぁあぁあーっ!」
 ティーダが悲鳴を上げて立ち上がる。スピーカーから「ぼすっ」という間の抜けた音がしたが、お構いなしで丘へ走る。
(どうしよう、どうしよう、どうしよう!?)
 撃たれたスコールは頂上から向こう側へ落ちた。あぁ、まさか。まさかそんな。
「落ち着け、ティーダ」
「ライっ、ト……」
 がしっと首根っこを掴んだのはライト・コーネリアだった。
「大丈夫だ」
「っでも!」
「あれは演技だ。死んではいない」
「……………あぇ?」
 変な声が出た。ライトはくす、と淡く笑うと、ぽんぽんとティーダの肩を叩いて促した。
「演技? あれが?」
「あぁ」
 2人を追ってきたセシルが苦笑した。
「あれは、ちょっと知識があればすぐにわかる演技だったね」
「……ど、どゆことッスか……?」
 とととと、と不安そうに駆け寄ってきたユウナを抱き留め、ティーダは首を傾げる。
「説明は専門家から頂こうか。ねぇクラウド?」
「おい元警察官」
 クラウドは忌ま忌ましげにセシルを睨み、大きな溜息をついた。
「説明はあまり得意じゃないんだが……あー、銃に種類があるのは当然知ってるるよな、ティーダ?」
「それは流石に知ってるよ。『首都警特捜班』、オレの当たり役だぜ?」
「そうだったな……失言だ、すまない。じゃあティーダ、銃弾の種類を皆に教えてやってくれないか」
「銃弾の種類? って、9ミリパラベラムとかそういうの?」
「あぁもっと大雑把で良い。散弾とか、榴弾とか、そういうのだ」
「あぁ! えー……ホローポイントとか、フルメタルジャケットとか、制圧用ゴム弾とか?」
「そうだな、刑事モノに出てくるのはその辺りか」
 クラウドは面倒そうにセシルを振り向いた。セシルは優しくティーダに微笑む。
「主な用途が拳銃のホローポイントは、弾頭が柔らかく人体を貫通しない。じゃあ貫通するものはと言われれば、弾頭を硬質金属で覆ったフルメタルジャケットになるね」
「そしてそのフルメタルジャケットは、主な用途はライフル銃だ。つまり?」
 セシルの説明を受けてのクラウドの問いに、ティーダは首を傾げる。その頭を、フィリオンがぽんぽんと撫でた。
「つまり、『もしアーヴァイン・キニアスの撃ったものが本物であるなら、弾は貫通すべき』、だ」
「…………あ!」
 ティーダはやっと理解した。
 ライフル銃に使用される弾丸はフルメタルジャケット弾だ。フルメタルジャケットは鉄板を撃ち抜ける弾丸であるから、遥かに柔らかい人体ごとき簡単に貫通する。つまり、血柱が立つにしても貫通の勢いに乗って背中側に立つべきなのだ。
「あ、あのやろ……!」
 心配したのはティーダの勝手だが――考えてみれば当たり前だ、彼らはバトルのプロなのだから!――、腹が立って仕方がない。手をわきわきと握ったり開いたりしている彼を取り囲むスタッフ達や通りすがりの候補生達が、くすくすと好意的な笑い声を零していた。




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