何とかして、訴えたかった。少なくとも1人、世間から消えたのだと。
 だが親も先生も、その消えた1人の家族さえも訴えを無視した。そんな訳はない、と。
 意図的に隠された事件は表に出てこない。そうこうしているうちに、手遅れになったらどうするのだ!?
 だが具体的な手段はひとつもない。子供とは、何と不自由な存在だろうか。

 世界は、あまりにも平和だ。

Mission: Hide and Seek

Act.3 調査


 歓迎パーティー、というからには、暖かで晴れやかなものだと思っていた。
 だが、リノアの目に映るのは――何というか、「乱痴気騒ぎ」に近い。少なくともリノアには、そう見えた。
 勿論、皆それなりに盛装している。しかしこの騒ぎは、果たして紳士淑女の卵の集まりと言えるのだろうか。それともリノアが知らないだけで、世間的にはこんなものなのだろうか。
「カーウェイさぁん、楽しんでる?」
 クラスメイトの女の子が、リノアの背後から抱き付いてきた。
「あ、タッカーさん……ちょ、な、んかアルコールの匂いしてるんだけど……まさか?」
 ミス・タッカーは上機嫌で頷く。
「今日は寮監の先生がいらっしゃらない日なの。だからあなた達の歓迎パーティーをしようって決めたのよー!」
 つまり、お目付け役の大人がいない内に、派手に遊んでしまえ、という訳か。言い方は悪いが、歓迎パーティーはどうやら口実らしい。それでもレセプションホールの使用許可はちゃんと取り付けているようで、入り口のドアには「使用許可 10:00PMまで きちんと片付けて帰ること」という貼紙がしてあった。酒の持ち込みは、はてさて誰の悪巧みか。
 レセプションホールは天井が高く、貴族の邸宅やお城にあるダンスホールのように設えられている。事前に見せてもらったカリキュラムには礼法の授業があるようだったから、きっとその際に使うのだろう。噴水の置かれた庭共々微に入り細に入り整えられているが、リノアにはバラム・ガーデンのあの大ホールの方が好ましい。シンプルで最低限の装飾しか施されていない、だけどまばゆい陽の光が射し、美しい夜空が見えるあのホールが。
「……退いてくれないかな。通れないんだけど」
 背後から忍び寄るように被さってきた声に、リノアとミス・タッカーは慌てて脇に避けた。
「あら、ごめんなさい……って、何だ、レオンハートくんじゃない。遅かったわねぇ」
「用意に、手間取って」
「そうなの? ……あーあーあー、そんなのしかなかったの?」
 スコールの全身を上から下まで眺め回したミス・タッカーは、面白くなさそうに唇を尖らせる。
 白いドレスシャツに焦げ茶のズボン、そしてループタイにベージュのカジュアルジャケット。悪くない合わせだと思う。だが……野暮ったい。袖の長さが適当過ぎるのも原因だろう。全体的に、ぴったりしっくりしていない。
 眼鏡をずり上げたスコールは、彼女の「そんなの」発言に傷付いた様子だった。
「時間はあったんだし、一言言ってくれればプロデュースしてあげたのに」
「…………」
 ……多分、彼女に悪気はない、と思う。だが彼女には、相手がどう捉えるのか想像出来ていないのだろう。
(前のわたしも、多分そんなんだったろうなぁ……)
 リノアは苦笑する。与えられるばかりの楽園では、彼女はお姫様だった。
 実はリノアは、成り行きでバラム・ガーデンに逗留するようになるまで、集団生活というものに縁遠い人生を送ってきた。勉強は家庭教師に見てもらっていたし、外出もお付きの人が安全を確認してからほんの少しの時間だけ。同い年くらいの子供達と持てた触れ合いといえば、夏場のサマーキャンプくらいのものだ。それでも軍の有力者の娘ということで、実に細やかに気遣われていた。
 そんな現状に苛立ち始めたある日、ガルバディア軍が隣国に何をしでかしたのか知ったのだ。愛犬と共に家を出奔し、ティンバーの小さなレジスタンスに身を寄せた。活動資金にも汲々としているレジスタンスが多いティンバーでは、密かに資金を提供する為の小口のアルバイトが多い。そういうことをし始めて、リノアは初めて自分が過剰な程に大切にされていたことに気付いたのだ。それでもゾーン達が彼らなりの細やかさで色々と考えてくれていたことにはついぞ気付かなかったが……。
 ガーデンでは、基本的に「自分のことは自分で」がモットーである。寮や教室の掃除、衣服の洗濯、食事等々……勿論、幼い子供達には補助が必要となるが、それも上級生が監督する形であり、大人は余程の場合以外では関わらない。故に子供達の間では互いに協力することが是となり、そこに与えられるだけの存在は出来上がらない。リノアはガーデンに来て初めて、自分にも誰かに気遣いをしてあげられる、ということを知った。
 それは例えば、感情のままに言いたいことがあっても一旦押し止め、言うべきことだけを吟味すること。
 例えば、相手が出来ないことをさりげなく助けること。助けたことを誇らないこと。
 例えば、辛い思いをしている人を我慢強く待つこと。助けを求められれば惜しみなく与えること。
 些細なことであり、極日常的なことだ。だけど全て、家の外に出なければわからなかった。
「……あーぁ、行っちゃった」
 逃げるように2人から離れていくスコールを見送りながら、ミス・タッカーつまらなさそうに唇を尖らせる。彼女がふと目を転じると、リノアは心配そうな顔をしていた。
「なにー、その顔。あ、カーウェイさんってばレオンハートくん好きなの?!」
「ちょっ……」
 アルコールが入っているせいか、ミス・タッカーの声が大きい。リノアは慌てて彼女の口許を押さえた。変に注目を浴びたくない。
「声がおっきいよ」
 リノアが頬を赤らめて抗議すると、ミス・タッカーはにまにましながらリノアの肩を叩いた。
「大丈夫、大丈夫! カーウェイさんが心配してるよーなことはないわっ。もし婚約者さんがカーウェイさんのことを聞きに来ても、しっかり黙ってるから!」
「あ……うん、ありがと……」
 最早どこからツッコミを入れれば良いのか。
 リノアは顔では笑いながらも、胸の内で盛大な溜息をついた。

 歓迎パーティー(と称したお祭り騒ぎ)の最中、エディ・バウワーは苛々していた。
 気に入らない。何もかもが気に入らない。脳天気な連中の笑い声がしゃくに障る。歓迎パーティーだって? ふざけるな、少なくとも1人の女子が、世間から消えてるんだぞ?
 そんなときにパーティーを楽しんでなんかいられるか!
「おい、エディ。どうしたんだよ」
「…………」
「呑もうぜ、なぁ」
「うるさいな、ほっといてくれっ」
 酷い剣幕で怒鳴られた友人達は、困り果てた顔を見合わせた。
 ここ暫く、エディはずっとこんな具合なのだ。何が気掛かりなのか、エディは友人達には話してくれない。勉強も「とりあえずしている」という感じ。こんなに身が入っていない様子で、大学受験など大丈夫だろうか、と友人として心配になる。
 そんなところに、編入生だ。
 唐突な異物の出現はエディの堪忍袋の紐を引き千切ってしまったらしく、哀れ編入生は八つ当たりのターゲットになってしまった。一部の連中はエディの態度に悪乗りし、妙な悪戯をしでかしている。それがまた教師達の目からは巧妙に隠されているものだから始末に終えない。
 そのターゲットは、窓際に申し訳程度置かれている空のテーブルで食事していた。随分と大量に食べている様子だ。自棄食いだろうか? エディはグラスを適当に放り出し、つかつかとスコールの元へ向かった。
「おい」
 エディは高圧的な態度でスコールに声をかけた。
「ちょっと顔貸せ、レオンハート」
「…………」
 スコールは応じない。苛ついたエディは皿を取り上げた。
「顔貸せ、って言ってるだろ」
「…………」
 ちら、とエディを見たスコールは、すっと音もなく立ち上がった。一瞬たじろいだエディだったが、スコールの目的が皿に残っていたカツレツの一切れだったことに気付くと、目を眇めて舌打ちする。
 すっかり食べ終わったスコールは、エディに手を差し出した。
「皿を」
「…………」
 エディは動かない。スコールはさっさと皿を取り上げると、フォークを添えてテーブルを立った。
「前にも言ったけど、食事中は静かにしたら?」
 無愛想な物言いだ。エディ以外には小心者が必死に声を上げた結果に見えただろう。
 だがエディにはそうは思えない。思える訳がない。
 先日、たまたま目に付いた彼に要らぬちょっかいをかけた。その時彼は、泰然自若としてエディに応戦した。その時エディは手こそ出さなかったが、内心では一発かましてやりたい気持ちでいっぱいだった。眼鏡を通さない彼の目に、無性に腹が立ったのだ――お前が馬鹿やってる理由なんかお見通しだよ、そう言われているような気がしたのかもしれない。
 スコールとエディはテラスから中庭へ降りた。音楽が少しだけ遠ざかり、代わりに噴水の音が響く。その水に冷やされたか、2人の間を冷たい風が吹き渡る。
「それで何の用だ?」
「何の、って……」
 エディは怯む。
 用なんて、取り立ててあったわけじゃない。ただ、スコールに苛々した。だから顔を貸せと言った。それだけだ。
 あの時点で彼が素直に動いていたなら、恐らくエディはすぐに興味を失っただろう。人間なんてそんなものだ。苛々は自分の思う通りに物事が動かないから募るのであって、スムーズに事が運ぶ場合は気分を害したりなんてしない。
 スコールは溜息をついた。
「迷惑なんだよ、八つ当たりとか……第一、取り巻きくっつけて他人を攻撃するなんて愚の骨頂だ。あんた、自分で自分の価値をおとしめてるようなものだぞ。今すぐやめた方が良いと俺は思うけど」
 スコールの言葉は、確かに正論だ。正論過ぎて腹が立つ。
 エディは思い出した。
 スコールに苛々したのは、その姿が自分に似ていたからだ。両親に何を言っても聴き入れてもらえず、ただ萎縮するだけの自分に。
 そして――今のスコールは、その両親にこそ似ていた。正論らしい正論を並べ立て、自分の無力さを思い知らされる。
 エディの顔が見る間に引き攣り……。
「うわあぁぁっ!」
 エディはスコールに飛び掛かると、彼を思いっ切り噴水の中へ突き飛ばした。
 ばしゃん! と盛大な水飛沫が上がった。たまさか見ていた少年少女が悲鳴を上げる。
 エディは自分のやらかしたことに硬直していた。
 スコールは起きてこない。どうしよう、やってしまった。
 彼が恐る恐る水の中を覗き込むと……ぬ、と手が伸びてきて、エディを噴水へ引きずり込んだ。
「うぎゃっ」
 再びの水飛沫。
 おたおたと手足をばたつかせ漸く起き上がったエディが見たのは、未だ噴水の中で仁王立ちしているスコールだった。
「やるなら最初っから1人でこれくらいやりやがれ、ばーかっ!」
 びしっと指を突き付けるそいつは、どう見てもやんちゃ坊主だった。エディはぽかんとスコールを見上げる。
 スコールはエディの首根っこを掴んで引っ張った。エディはよたよたと噴水を出て、無駄だと知りつつ両手を振る。スコールはジャケットを脱ぎ、眼鏡を外し、前髪を掻き上げて頭を振る。
 そこに。
「こらぁっ、スコール! 何やってんの!!」
 駆け付けたリノアが大声で怒鳴ると、スコールはびくっと肩を聳やかした。不覚にも噴き出しそうになるエディ。
「まったくもぅ、ずぶ濡れにしてぇ」
「さ、先にやったの俺じゃないっ。俺はされた側……」
「だからって素人さんにそっくりやり返す人が何処にいますかっ! もぅ、早く着替えてらっしゃい、すぐ風邪引く癖して!」
 スコールは口をヘの字に曲げると、渋々寮へ足を向ける。
 リノアはエディに向き直り、ハンカチを取り出した。
「ごめんね、えぇと……バウワーくん」
「いや、大丈夫だ。元はといえば、おれが悪いんだし」
「それでも、ごめんなさい。普段はあんなことしないんだけど」
 ぱたぱたとジャケットを拭うリノア。そのハンカチの中から、何かが落ちたように見えた。
(?)
 だがエディの足元には何もない。
 不思議そうなエディの姿を気にもせず、リノアは一通り拭き終わると、1歩離れて全体を見回す。
「うーん、ちょっと無理あったか。早めに着替えてね、バウワーくん」
「あ、あぁ、うん。ありがとう」
 リノアはにっこり微笑むと、ひらりと手を振ってその場を後にした。

 パーティーは時間いっぱいまで催され、そして終了した。片付けが終わって皆が寮室に引っ込んだ後というのは、不気味な程静かだ。
 エディは、おっかなびっくり廊下を歩いていた。
「……ったく、何の用だって言うんだ……」
 誰も聞いていないというのに、自然と声が小さくなってしまう。
 ジーンズのポケットから小さなメモを取り出し、エディは思いっ切り鼻先に近づけてみる。それは、先程着替えた時にジャケットのポケットから見つかったものだった。

『Come to C-203
 PASS→白い鳥は飛んで行った』

 生徒間では、男子寮はM棟、女子寮はF棟と呼ばれている。本当は校風に相応しい名前があるものの、面倒だし誰が呼ぶんだということで、ガルバディア民族語で男女を表すメイルとフィメイルの綴りからそう呼ばれている。この部屋番号は――部屋番号と仮定して――どちらにも当て嵌まらない。だがC棟はある。Cはセンター、男子寮と女子寮を隔てながらも繋ぐ棟であり、つまりは教職員用の寮の略称である。エディだって身が縮むというものだ。
「201、202……3、ここか」
 辛うじて射した月明かりで部屋番号を読み、エディはC棟203号室の前に立った。
 こん、こん、こん。
 控えめにノックする。が、応答はない。
 正直、何をしているんだと自分自身に問い質したい。単なる悪戯かもしれないのに、馬鹿正直にこんな所へ来て。
 エディが焦れ始めた頃、ドアが小さく開いた。中から顔を覗かせたのは、C組のジェイク・トゥルーデルだった。
「合言葉は?」
「合言葉?」
 きょとんとするエディに、ジェイクは頷いてみせる。
「鳥は?」
「鳥……あ、あれか。えーっと……『白い鳥は飛んでいった』」
「……どうぞ」
 ジェイクはドアを大きく開いてエディを招き入れた。エディは戸惑いながらも、部屋の中へ足を踏み入れる。
 部屋の作り自体は、自分達生徒のものと変わりない。ただベッドシーツやカーテンの色は、セピアやモノクロ調のシックなものになっていたし、勉強机がない代わりに小さなカフェテーブルのセットが揃えてあった。ベッドには書類やら何やらが散らばっており、見知らぬ男女がそれを検分している。
「司令官」
 ジェイクが声をかけると、ドアに背を向ける形でベッドに腰掛けていた男が振り返った。彼は手にしていた書類を俯せにすると、女性の肩を緩く叩いてから立ち上がる。
 金がかった茶髪と蒼銀の瞳を持った、なかなか見目の良い男だ。服装は軍隊のそれによく似ていて、複雑な紋様の織り込まれた飾り襟と胸にあしらわれた銀の鎖が殊更に目を引いた。だがエディが驚いたのは、そちらにではない。
「レオンハート……っ?」
 そう、見知らぬ男だと思っていたのは、編入生のスコール・レオンハートだ。思わず指を指すエディに、スコールは苦笑する。
「お呼び立てして申し訳ありません。どうぞ」
 スコールはエディの肩を緩く押し、カフェテーブルの一席に座らせた。タイミング良く女性がカップを差し出す。ありがとう、とカップを受け取ってエディはまた驚いた。女性はリノア・カーウェイだった。リノアはかっちりとしたタイトスーツ――やはり軍服のようで格好良く見えた――に、紅いネクタイが映える。ふわふわとした愛らしい少女なのに、何故ここまで面変わりしてしまうのか。
 ぽかんとしているうちに、スコールはノートを手にエディの対面へ腰掛けた。
「では、改めて……自分はバラム・ガーデン所属のSeeD、スコール・レオンハートと申します。こちらは部下のハーティリーとトゥルーデルです。どうぞよろしくお願いします」
「はぁ……?」
「いきなりで申し訳ありませんが、二、三話を聞かせてください」
 差し出されたスコールの手を握るエディ。状況がまだ飲み込めていないのだろう彼は、狐に摘まれたような表情をしている。スコールは彼の目の前で指を鳴らした。
「エディ? ミスタ・エドワード・バウワー?」
「……えぇと、悪い、何の冗談だ? レオンハート」
「冗談ではないんですが……あー、敬語とかない方が良いか? 同い年だしな」
 エディが頷くと、スコールは小さく数度頷いてテーブルの上で両手を組み合わせた。
「驚かせて悪かったな。俺達はある事件の捜査をしているんだ」
 エディの目に動揺が走る。落ち着きなく座り直し、目線をふらつかせる。
「悪いが、おれでは……」
「ミリアム・ロックベル」
 ぴく、とエディの肩が震えた。
「知り合いだよな」
「……ミリィ?」
 数瞬の間を置き、エディは身を乗り出した。
「見つかったのか? 生きてるのか!?」
「まだわからない。でも俺達は生きていると思っている。でなきゃ、半年も足取りが掴めない理由がわからない」
 実際は遺体が出ていない、という理由で行方不明なのだが、それは彼に言うべきことではない。だがそれでも、エディはほっとした様子だった。緊張し通しだった眉が開き、目が少しだけ潤んでいる。
「話を、聞かせてくれるな?」
 スコールがもう一度問うと、エディは頷いた。
「でも、おれは事件のこと殆ど知らないぞ? 話すと言っても、何を話せば?」
「事件の捜査は俺達の仕事だ。エディ、あんたに訊きたいのは、彼女の人となりについてなんだ」
 エディは不可解そうに首を傾げた。
「誘拐事件、なんだろ?」
「誘拐、と判断する前に、いろいろと確認することはあるんだ。例えば家出じゃないか、とか」
「ミリィはそんなことしない!」
「落ち着け。……だから、これは確認なんだ。人となり、習慣、昨日何してたのか、明日何するって言ってたのか、近々旅行に行くとかいう話はなかったか、将来何になりたいのか、そういうことをひとつひとつ確認して、明らかに家出じゃない、自分自身の意志で消えたんじゃないと確信して、初めて誘拐事件の被害者だと断定されるんだ。同時に、足取りなんかも掴めるかもしれない」
 エディは難しい顔をした。
「……彼女、は……」
 ゆっくりと話し出したのは、確かに他愛もない筈のものだった。
 ミリアムはエディと同い年の少女であること。
 綺麗なものが好きで、だけど薔薇の花はあまり好きでないこと。
 手紙の返事はきっちり返してくれること。
 手紙の字は、最初はいつも駆け出すような感じで、中盤になって漸く落ち着いた丁寧な字になること。
 次に会う時はティンバーに遊びに行こうと約束したこと。
 新しい服を買ったこと。
 とつとつと話されるそれらを全て聞いた後、スコールはふと背後を振り返った。
「リノア、今の話聴いてどう思った?」
「これは家出じゃないなー、と思った」
「どうして?」
「だって、ティンバーに遊びに行く約束をしたんでしょ? 服はその為に新調したのよ」
 デートなんだから気合い入れなきゃ! と意気込むリノアに苦笑しつつも、スコールは同意を示して頷いた。
「確かにあんたの言う通り、家出は有り得ないな。近日中にどこかに行く予定もなかった訳で……」
「一応、約束はしたけど……」
「つっても予定は早くて来月くらいだろ? 受験生」
「まぁな。ミリィもそうだし」
「国立の士官学校?」
「いや、普通の大学。おれは軍隊に入りたい訳じゃないし、ミリィも上に兄弟がいるから興味ないみたい。服飾関係に行きたいとは言ってたな」
「ふぅん。じゃあ武者修業とかするタイプか?」
「いや、そういうことはなくて、自分でいろいろ描いたり作ったりしてた。出来たやつは専ら人にあげてたな。おれも貰ったんだ」
 そういうと、エディは左手に付けたブレスレットを見せた。革とビーズで編まれたそれは、成程確かにセンスがある。スコールは微笑した。
「良いな、そういうの」
「良いだろ」
 エディは嬉しそうに歯を見せ……だがその笑みはすぐにかげってしまった。
「…………ミリィから、手紙が届かなくなったんだ。半年前……。
 あの時、おかしいなって思って、返事はなかったんだけどもう一度手紙を出したんだ。でも……来なくて。両親に相談してみたんだけど、『向こうの都合もあるんだから』って取り合ってくれなかった。ミリィのご両親にも連絡取ったんだ…………」
「どうだった?」
「無視、された。『そんな訳ない』って……っ」
 俯いたエディの膝に、ぽつりと雫が落ちた。スコールは席を立ち、エディの肩をそっと叩いた。
「事件の第一発見者だったんだな、あんた」
「…………」
「独りで、しんどかったろ。よく頑張ったな」
 スコールは年少クラスに向けるような柔らかな声で労る。エディは目許を袖口で何度か拭い、スコールを見上げる。
「ミリィを見つけてくれ。頼む」
 スコールは力強く頷いた。
「全力を尽くすよ」




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