The Stage Is Set. 3


 世界は、相変わらず暗い。所謂、「丑三つ時」という時分だった。
 彼等にとって、それは非常に都合が良かった。真夜中を過ぎ、月も見えないようなこの状況は、ガルバディア軍の補給列車を強襲するまで身を隠すのに役立ってくれるからだ。 夜闇に良く馴染む濃緑を纏い、彼等は息を潜めていた。
「……見えた!」
 単眼鏡を構えじっと闇を見つめていた者が、潜めながらも興奮を隠しきれない若い声を上げた。周囲の気配がさざめく。
 闇の中に、ふたつの光る目が瞬いていた。それは見る間に大きくなり、彼等が潜む貨物駅を通過していく。
「あれだな」
 彼等は頷き合い、身を起こした。
「皆、準備は良いな」
「ドールの誇りの為に!」
「おぉ!」
 鬨の声を作った彼等は、貨物駅の待避線に置かれていたものの覆いを取り払う。闇に融ける色合いを施されたそれは、ガルバディアの保線車を装った戦車だった。
「打倒、ガルバディア!」
「魔女の手先、悪鬼どもを追い払え!」
 彼等は拳を突き合わせると、予て定めていた通りばらばらと散った。ある者は戦車へ乗り込み、またある者は四輪車や単車へ乗り込む。万が一の為、全滅を防ぐべくこの場から去る者もいる。
 悪夢へのカウントダウンが始まった。

 中継地点である学園東駅。
 バイクを降りたスコールは、思い思いに息をついている候補生達を眺めながら大欠伸をした。
「お疲れだね、スコール」
 バイクに同乗していたアーヴァインが、苦笑しつつ肩を叩く。スコールははっと背筋を伸ばした。
「……悪い」
「いーや、むしろ心配かな〜」
 アーヴァインは飄々と頭の後ろで両手を組む。
「こんなに復帰を急いで大丈夫かい」
 スコールは答えず、ただ肩を竦めてみせる。
 事実、彼の復帰には賛否両論が投げ掛けられた。
 ドクター・カドワキからは一応の許可が下りたものの、渋い顔をしていたことは否めない。学園長シド・クレイマーも同様。無論、リノアを始めとする彼の仲間達もそうだ。
 しかし彼の復帰を望んでいた者達がいたのも事実だった。
 SeeD司令官、スコール・レオンハート。筆頭SeeDである彼が、第三次魔女戦争によって負った戦傷から復帰することを、各国の潜在的な依頼者達は今や遅しと待っていたのだ。そして、ガーデンの子供達もまたそれを望んでいた。自分達を率いるカリスマが、また戦場に立つことを望んでいた。
(この世は、理不尽だ)
 アーヴァインは思う。
 誰も、知らないのだ。スコールがここまで――こんな風に自然に歩けるようになるまで、どれ程の努力をしたか、なんて。
 初めは酷い有様だった。起き上がることすら自力では出来ず、起き上がった所で何一つ出来ることはない。夢現の状態ならまだマシだったろうに、早々に意識の清明さを取り戻した彼の心中は如何ばかりか。全てを誰かに頼まなければ生きていけない、そんな状態に耐えかねた彼がベッドから落ちかけている、あるいは実際に落ちていたのを見たのは、一度や二度ではない。
「スコール先ぱっ……え、えーっと、司令官!」
 傍らのスコールを呼んだ候補生の一声に、アーヴァインははっと正気付いた。思考が、過去から現実へと戻ってくる。
 呼ばれた当の本人は一瞬きょとんと瞬き……次いで、小さな溜息をついた。
「別にどっちでも良い。どうした?」
「あの、差し出口かも知れないん、ですが……」
 おどおどする候補生に対し、スコールは軽く頷き続きを促す。候補生は少し口ごもり、息を吸った。
「途中の貨物駅、何か置いてませんでした? シートが被さってて、何かわかりませんでしたけど……」
「えっ?」
 スコールは目を丸くすると、アーヴァインを振り返る。アーヴァインは難しい顔で首を傾げた。暗視スコープを付けてはいたが、だからといって夜闇を全て見通せる訳ではない。
 だが。
「おかしいね。人材に恵まれないガルバディア軍だって、それなりには慎重だ。今回の為に前線封鎖くらいはするよ」
 アーヴァインがそう言うと、候補生は慌てふためいて両手を振った。
「いや、いやいやいや、単なる保線用の車両かもしれませんし!」
「いや、良く気付いた。違和感をそのままにしないというのは危機管理の面では重要だ」
 スコールは候補生の肩を叩いて労うと、バイクに引っ掛けていた無線を起動させた。
「こちらSeeDレオンハート。応答願います」
 連絡先はガルバディア軍の誰かのようだ。スコールは二言三言の会話の後、顔色を真っ青にして踵を返した。
 アーヴァインの目が厳しく眇められる。
「スコール」
「アーヴァイン、暖気やらせとけ!」
「了解」
 アーヴァインが片手を挙げて応じると、スコールは駆け出した。
「キスティス!」
 ガルバディア・ガーデンから運ばれた物資の積み込みを手伝っていたキスティスは、飛び込んできたスコールに片眉を上げた。
「キスティス、積み込みを急がせろ! 予定変更だ、定刻発じゃなく終わり次第発つ!」
「何、急に」
「途中の貨物駅に不審物があるのを、うちの班のが発見した」
「不審物ですって? 保線車じゃなくて?」
「カーウェイ大佐に訊いたら、『貨物駅も閉鎖して保線車も排除してある』そうだ」
「…………!」
 キスティスは無線を取り出した。
「総員、出立準備! 軍に協力して積み込みを急いで!」
 SeeD達が訝しがって顔を上げた。
 その時。
 ビシュッ!!
「!?」
 地面が、爆ぜた。
 途端、全てを理解したSeeD達が動き出す。
 そして、2度、3度と土が舞った。わぁっ、と幼い悲鳴が交錯する。
「大丈夫だ、まだそんなに近くない! 落ち着いて、押し合うな!」
 散々訓練を受けてきたといっても、候補生達には実戦経験はない。慌てふためく彼らを宥めつつ車両へ押し込みながら、スコールはリノアを探した。
「ハーティリー! ハーティリー、何処だ!」
「はい、ここです!」
 リノアは声を聞き付けると、最後尾の車両からひょこっと頭を出す。スコールはその姿を認めるや、急ぎ足で彼女へ駆け寄った。
「腕を」
「へ? 腕?」
「違う、左だ。ブラスターエッジを」
 リノアは戸惑いながらも、素直に武器を差し出す。スコールはそれを拘束するように脇で挟み、キーロックに電子鍵を押し付けた。すぐさま出てきたパスワード照会画面に、長ったらしいコードを入れていく。やがて、カチンと素っ気ない音を立ててロックが解除された。
「スコール!?」
「いざとなったら使え」
「え、でも」
「使え!」
 びくっと肩を聳やかすリノア。スコールは一瞬口をつぐみ、リノアの肩を両手で掴んだ。
 そして。
「っ!!」
 有無を言わさず口付ける。流石のリノアも真っ赤になった。
「またな。会いたかったら、生き残れ」
「…………」
 指先が彼女の肩を滑り、離れ、漆黒のSeeD服はあっという間に闇へと溶けていく。
 ごとん、と列車が動き出した。
「……けっ、気障なヤツ」
 サイファーは舌打ちをすると、リノアを下がらせ戸を閉めた。
「テメーもテメーだ、ンなときにときめいてんじゃねぇよ」
「うるさいな〜。良いじゃないのよちょっとくらい」
 リノアはぷーっと頬を膨らませ、サイファーが呆れ顔で小突く。場違いながら和む光景に、皆少しだけ緊張を解した。だが、気を抜ける状態でないことに変わりはない。
 キスティスは苦笑しながら、チェーンウィップを引き出し、戦闘準備を調える。
 セルフィは肩から提げた鞘からフレイルを引き出し、両手で振り下ろした。遠距離戦では役に立たないが、近接乱打戦になれば自分以上の者もないという自負がある。
 メアリアーナは懐から取り出した拳銃を、神経質な様子で弄っていた。
 リノアはメアリアーナの隣にそっと屈むと、ロックが解除されたブラスターエッジを弄った。パラララ、と軽い音を立て、エッジが展開されていく。軌道の関係上列車外の相手には通用しないだろうが、ないより気楽だ。
 そのはず、なのに――。
(落ち着かない)
 揺れる列車の中、リノアは苛々と魔法カートリッジを弄っていた。
「リノア、貴女まだジャンクション済ませてなかったの?」
 キスティスが咎めるように問うた。リノアは緩く頭を振る。
「ううん、ジャンクションはしてる。そうじゃないの……、っ!」
 ぴくんっ、と肩が震えた。その瞬間、リノアは反射的に魔法カートリッジのトリガーを引く。ジャンクションシステムによって極限まで圧縮された魔法式が解凍され、薄青い光が広がった、途端。
 ドォン!
「!!」
 一瞬の閃光、次いで照明が落ちる――否、照明は消滅していた。何故? 空転していた思考が明晰さを取り戻した時、キスティスの視界にはどんどん過ぎていく線路が星明かりを朧げに反射している……そんな光景が映っていた。何かによって天井と壁を見事えぐられ床のみが残った車両の残骸が、かろうじて自分達を乗せている。
「……リノア」
 キスティスが振り向くと、当の本人(リノア)はカートリッジを握り締めたまま呆然としていた。
 一体、何の思惑が発露した瞬間なんだろう。神か? 人か? あるいは――。
「おい、落ちるぞっ」
 足元をぐらつかせたキスティスの腕を、サイファーが掴んだ。
「サイ、ファ」
「ボケッとすんなよ、先生よぉ! 今俺達は何すりゃ良いんだ? ここでおめおめと死ねっつぅのかよ!?」
 サイファーの喝に、キスティスの思考がかちりと切り替わる。
 そこへ、無線が割り込んだ。
『……ス、応と……キ……』
「!!」
 不明瞭ではあったが、それは間違いなく我等が司令官の声。キスティスは慌てながらも周波数を合わせるべくダイヤルを回す。
『……キスティス、応答しろ! おい!』
「スコール!」
『キスティス! 無事だったか』
 スコールの声は、明らかに安堵した調子だった。
『今の爆発、被害状況は?』
「車両に大規模な損壊あり。でも安心して、死傷者はないわ!」
『そうか、良かった……』
 キスティスの返答に、スコールの声は一瞬途切れた。
『キスティス、あんた皆を連れて退避しろ。大破した最終車両を切り離し、放棄する』
「それは……」
『カーウェイ臨時元帥からの指示だ。どうせ後ろ2両に載せてるのは殆どがジャンクだろ。放棄したって大して痛手でもない。
 前の方に退避しろ。サーティカウントの後、連結器を破壊する』
「了解!」
 キスティス力強く応答し、一同を振り返る。
「司令官から指示が出たわ。サーティカウント後この車両は放棄します! 皆、前へ移っ……っきゃ!」
 ぱっと壁に火花が散る。サイファーがキスティスの腕を取り、位置取りを替える。セルフィとリノアは青褪めた。
「キスティ!」
「大丈夫よ、早く行きなさい!」
 飛び上がったメアリアーナは慌てて前方車両へ続くドアへ手をかけた。が。
「開かない!」
 フレームが歪んだ金属製の扉は、メアリアーナの力ではびくともしない。それを見たサイファーは盛大に舌打つ。
「サイラス、代われ! お前が応戦しろ!」
「わかったっ」
 メアリアーナは銃のセーフティを外し、構えながら後方へ向かう。逆にサイファーはガンブレードを一旦しまい込み、扉に手をかけた。
 ガンッ! 一度では動かない。
 ガンッ! 扉のフレームに足をかけた二度目は、少しだけ扉がズレた。
 セルフィがサイファーの手の上から、扉のレバーを掴む。
「手伝うっ」
「おうよ! 行くぞ……いち、にい、さん!」
 ガシャアンッ! 扉は派手な音を立て、手前に倒れた。
「開いたぁ!」
「良いから急いで、切り離しまであと15秒よ」
 ガッツポーズをするセルフィの背中を押し、キスティスは皆を急かす。メアリアーナはぎりぎりまで構えを解かず、数度弾を撃ってから扉を潜る。
 異変は、その時起こった。
「うわっ……!」
 そろそろカウントが終わるというタイミングで、大きな銃声が響いた。あと3人、3人行けば退避は完了するというのに!
 残ったのはサイファー、キスティス、そしてリノア。サイファーは気付いていた――外で、銃撃戦が始まっている。連結器を撃ったのは、スコールやアーヴァインでは有り得ない。
「リノア、先生、早くしろ!」
 酷い揺れの中、サイファーは叫んだ。限界までスピードを上げていく列車に付き合えず、車両はぐらぐらと悲鳴を上げつづけていた。連結器が半ば破壊され、支持を失いつつあるのだろう。猶予はもうない。もたもたしていれば車両ごと脱線するか、取り残されるか。
 リノアは後方を振り返った。何かが、近付いて来ている。
「あれ……」
 武骨な戦車のような軌道車は、上に何かを載せてこちらへ向かっていた。星の光でははっきりとはしない。だが、武装した人のように思われた。
「おい、リノア!」
 サイファーが呼ばわるのも聞かず、リノアは魔法カートリッジを探る。
 そして。
「ファイア!」
 小さいが明るい光が、流星のように軌道車へ迫る。リノアは着弾を確認せず踵を返した。所詮目くらましだ。急がなければ!
「早く来い、リノア!」
 サイファーは既に向こうへ渡っていた。連結部を越えて車両にかけられた手は、ぶるぶると震えている。
「うぉっ……!」
「サイファー!」
 ずるっ、と手が外れ、サイファーの身体が前のめりになる。辛うじて彼は体制を整えたが……。
「…………っ」
 リノアは、息を飲んだ。連結器は全くその用を成しておらず、その空隙は少しずつ広がり始めている。
 リノアは足元を見、怯えた目でサイファー達を見た。
「リノア、いらっしゃい!」
「でも」
「良いから跳べ! 大丈夫だ、受け止めてやる!」
 2人に言われずともわかっている。生き残るには跳ぶしかない。だが落ちれば即、あの世行きだ。足を竦めずにいられようか。
(スコール……!)

『またな。会いたかったら、生き残れ』

 恋人の声を思い出す。リノアはぎゅうっと目を閉じると、2、3歩下がってから勢い付けて飛び出した。
 キスティスのウィップがリノアの腹に巻き付く。
 サイファーの手がリノアの腕を捕らえる。
 2人に渾身の力で引き入れられたリノアは勢い余って奥へ飛ぶ。その身体を受け止めたのは、セルフィとメアリアーナだ。3人は一緒くたになって前方の扉へ叩き付けられたが、咳き込んだ程度で特に問題はなさそうだった。
 列車が本線と貨物車用線と分かたれる分岐ポイントに差し掛かった。ガガガガ、と不安になる音を立てて、列車は右の本線を選び、カーブを曲がっていく。ぼろぼろになった最後尾の車両は、ゆっくりと遠ざかる。
 彼我の距離がおよそ1メートルになったとき、丁度ポイントの手動切替用のレバーが彼らの目に入った。
 一条の光線となった銃弾が、レバーに叩き付けられる。レバーは呆気なく破壊される。しかし、その最後の使命は違うことなく果たされた。
 切り換えられたレールに従い、置いてきぼりの車両は貨物車用線へと進む。牽引がなくなり歩みの遅くなっていくその車両に、SeeD達の牽制銃撃を受け続ける軌道車が突っ込み、火花を散らした。炎上、したかもしれない。それはキスティスからは見えなかったが、少なくとも自分達の帰還は約束された。
 列車は闇を切り裂いて、夜明けに向かって走っていく。

 夜明け前に、補給列車はティンバーへと到着した。まずSeeD達が降車し、駅に待機していた警備隊と共に周囲の安全を確認した後、ガルバディア軍が、そして候補生達が降りてきた。
 皆、列車の外で銃撃戦があったことは知っていたから、やっと平穏な朝に出逢えそうだという期待で少しだけ浮かれている。
「よ、リノア」
「ゼル」
 所在なげに立ち竦み、周囲を見回していたリノアは、列車の前方に乗っていたゼルの朗らかな笑顔にほっと息をついた。
「災難だったな〜、最後尾に乗ったばっかりに」
「はは……」
 リノアは苦笑し、頬を掻いた。
 確かに、大変だった。だが普段依頼を受け、世界各地に派遣されているSeeD達の辛さは、この比ではないだろう。
(わたしにSeeDは無理だろうな……)
 リノアは人知れず唇を噛み締めた。
 刻一刻と戦況が変化する中、臨機応変に立ち回ることが要求される傭兵は、高い能力が無ければ務まりはすまい。中盤、リノアはあまりの胸騒ぎについ魔法カートリッジのトリガーを引いた。それはリノア達を爆発から護ってはくれたけれど、まぐれ当たりのプロテスなど、まず評価の対象にはならないだろう。
(スコールに会いたい)
 慰めて欲しかった。どうしようもなかった、でもよく頑張ったと言って欲しかった。あの人にそんなことを求める自分の甘さに辟易しながらも、リノアはスコールの腕を求めていた。
 刻一刻と東雲色に染まっていく原野。そこに、夜明けに追い立てられるかの如く、黒い影が駆けてくる。スコール率いる遊撃隊だ。
 2人一組で乗り合わせたバイクが数台と、サポート用の四輪が1台。
 だが、肝心の2人がいない。
「スコールは? それにアーヴァイン!」
 バイクから降りたばかりのカティアを掴まえ、リノアは必死の形相で問うた。カティアは一瞬呆気に取られたが、すぐにリノアが何を心配しているのか理解した。
「後から来るよ」
「何かあったの……?」
「心配ない心配ない。ガス欠だよ」
 隣のバイクに乗っていた背の高い候補生が、ヘルメットを外しながら苦笑いした。
「ほら、途中でオレら撃ち合いになったろ? あの時、先輩のバイクが被弾したんだ」
「怪我したの!?」
 青褪めるリノアの肩を叩き、カティアはほわっと笑う。
「ううん、怪我はなかったみたい。だよね?」
「あぁ。でも燃料タンクは掠られてヒビが入ったらしい。それで燃料が漏れまくって、で、ガス欠。オレらのバイクと交換しますか、って訊いたけど歩くって言うし。ま、10分くらい前の話だからすぐに到着するさ」
 あっけらかんと話してくれた2人の様子に、リノアは漸く安堵した。その肩を、キスティスがそっと抱く。
「任務は終わったのよ、リノア」
「うん」
 後はスコールとアーヴァイン、2人が帰還すれば全て、終わる。キスティスは指揮官の1人として、彼らの友人として、2人の帰りを待っていた。
 30分程が経過しただろうか。
「あ!」
 和やかに話をしていた候補生が、朝日を指し示した。
 ――いや、正確には「朝日」ではない。バイクを押して歩くスコールと、その隣で暢気に手を振っているアーヴァインだ。その姿を認めたキスティス達は、やっと息をついて頬を緩ませる。
「スコールーっ!!」
 リノアは待ちきれずに声を上げ、駆け出した。俯きがちに歩いていたスコールが顔を上げる。
「リノア……」
 憔悴したその顔が、ほっと柔らかくなる。アーヴァインが気を利かせてバイクを引き取ると、スコールは数歩歩き、飛びつこうとしたリノアに倒れ掛かった。リノアは小さく声を上げ、重みに耐えかねてその場に座り込む。
「あ、れ?」
 スコールはきょとんと瞬いた。足腰に……というか、身体に力が入らない。視界が霞み、意識も靄がかかっている。その様子は、リノアにも手に取るようにわかった。
「ごめ、リノ……」
 呂律がろくに回っていないのは、眠たいからだろう。まだ本調子ではない身体には、昼間に仮眠を取ったとはいえ夜通しバイクを駆るのは相当辛かったに違いない。リノアは苦笑し、ゆっくりとその背を撫でてやる。
「もぅ、良いよ。もう大丈夫。任務は終わりだよ」
 いい子いい子、と肩を叩くと、それまで睡魔に抗っていたスコールの身体から、すとんと力が抜けた。
 全員の無事を確認したキスティスは、SeeD達に撤収の指示を出す。候補生達もそれに倣い、上官たるSeeDの指示に従ってそれぞれに散っていく。すっかり寝入ってしまったスコールを運ぶのは、アーヴァインの役目だ。やれ重いだの自分で歩けだの悪態をついているが、共に介助として付き添うリノアが見上げると、その口元は笑っていた。
 きららかに世界を照らし出す陽光に、皆の影が長く伸びていた。




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