翌朝、リノアは朝食もそこそこにバラム・ガーデン2階の廊下にいた。これから、SeeD実地試験の合格発表があるのだ。
本来、合格発表は実地試験の後すぐになされるのだが、今回は前例のない大人数での試験だった為に、採点自体手間がかかったのだという。教員には教員の都合があるのは理解すれど、緊張の一瞬はさっさと済ませてしまいたいのが生徒心というものだ。関係ない他の生徒達も、耳をそばだてている気がする。
「い、いよいよだね……」
「うわぁ〜、試験本番より緊張するよ!」
隣でそんなことを言い合っているのはカティアとシリル。リノアは大いに頷いた。
「こう、『自分は落ちた!』って自信あるときはホントに嫌な意味で緊張するよね」
「やめてよハーティリーさん、縁起悪い」
「えへ、ごめん」
わざとらしく顔をしかめたメアリアーナに、リノアは可愛らしく舌を出す。
その時、バインダーを手にしたキスティスが姿を現した。
「はい、静かに。皆お待たせ、これから昨日の試験の合否発表をするわよ」
ぴし、と空気が張り詰めた。
キスティスはくすりと微笑むと、バインダーを背後の人物に渡した。
「はい、司令官さま」
「本当にやるのか」
「えぇ」
バインダーを渡された人物――スコールは、面倒だとばかりに溜息をひとつつき、廊下に集まった生徒達を見回した。
「えぇと……皆、昨日はお疲れ様。良く休んだか?」
『はい!』
期せずして声が揃う。
「これから、合格者の名前を発表する。呼ばれた者は口頭で受諾し、すぐに3階の大ホールに行くように。そこで、所属を言い渡す。あぁ、大ホールには今ガーデンにいるSeeD全員が集めてあるから、面食らうなよ」
候補生達はひそやかに笑う。スコールは小さく笑うと、バインダーに目を落とした。
「アーヴァイン・キニアス」
「はい」
一番手に呼ばれた長身の伊達男は、優雅に一礼してみせた。
「サイファー・アルマシー」
「おぅ」
「……返事」
「はいはい」
サイファーは面倒そうに返事をし、スコールの横をすり抜ける時に後ろ頭をバインダーで叩かれていた。
発表は続く。
「ミシェル・アルジェント」
「シェルドン・ガードナー」
「クリス・マッコール」
「カティア・ハーネス」
「シリル・コンラッド」
「メアリアーナ・サイラス」
呼ばれる度に、喜びの声が上がる。傍らで眺めていたリノアは、微笑ましい気持ちで小さな拍手を贈っていた。
そして、最後の1人。スコールはちらと候補生達を見、口を開いた。
「リノア・ハーティリー」
「……へ?」
リノアはきょとんとした。
「返事は?」
「はい……ってホントにわたし!?」
一拍遅れて自身を指差すリノアに、周囲から笑いが零れる。スコールは溜息をついた。
「お前以外に『リノア・ハーティリー』がいるのか?」
「多分、いないと思う……」
「多分じゃなくていないんだよ、お前以外に!」
呆れたスコールは、ぱこん、とリノアの頭をバインダーで叩いた。そしてそのまま頭を押した。
「わかったんならさっさと行く! 駆け足!」
「はぁいっ」
リノアは少しだけ前につんのめりながら、軽快に廊下を駆けていく。
スコールはそれを見送ると、残された候補生達に向き直った。
「今回の合格者は以上だ。本当は、皆に合格って言ってやりたかったけど、無理だった」
わかっている話をわざわざするのは、彼の誠意の表れだろう。候補生達は居住まいを正し、彼の言葉に耳を傾ける。
「きっと皆、この試験の為に沢山の訓練や勉強を積み重ねてきたんだと思う。それを一瞬で否定されたと感じるやつもいるだろう。だけど、『人生全て終わりだ』とは思わないで欲しいんだ。
世界にある可能性は、無限にある訳じゃない。選べる道は限られてる。それでも、今SeeDになるだけが、ここにいるそれぞれが持ってる『可能性』の全てじゃない。SeeDになるには向いてないやつ――例えば、物理的な意味で力がなくても、コンピューターが上手く扱えたりする。戦略がたてられなくても、絵を描けたり、歌が上手く歌えたりする。傭兵をやるには気が弱すぎるように見えて、反面子供の扱いがとても上手いやつもいる。……逆に俺みたいに、傭兵やるしか能のないやつもいたりするけどな」
スコールが戯けると、キスティスがその腹に軽く肘を入れた。
「ともかく……皆に言いたいのは、これが最後じゃないってことだ。来年度の試験に備えて準備するやつもいるだろう。卒業試験の勉強を始めるやつもいるだろう。どんな道を選ぶにせよ、行き詰まったら相談してくれたら良い。SeeDになってもならなくても、皆はバラム・ガーデンという大きな家族の大事な子供達だ。皆が助力を請う限り、ガーデンはそれを惜しまない。
……でもまぁ、今日のところは」
スコールは仕切り直し、とばかりにバインダーを叩き、両手を広げる。
「何もかも忘れて、一緒にパーティーを楽しんでくれ。勿論、女子は着飾ってこいよ。SeeDになったやつはSeeD服を着て来るから、黒尽くめで色気ないしな」
「ちょっとスコール! 真面目になさいよ」
キスティスが苦笑しながらスコールの肩を叩いた。スコールは肩を竦め、「うるさい先生」とでも言いたげに隠れてキスティスを指差す。候補生達は笑いを噛み殺すのに必死だ。
「では、今朝はこれで解散。皆、改めてお疲れ様」
『ありがとうございました!』
候補生達は揃って頭を下げた。
泣きそうな顔で歯を食いしばる者がいた。
残念そうではあるが、少しだけほっとした顔をしている者がいた。
あるいは、すっかり気落ちした顔の者がいた。
大ホールに集まる者達は、きっとこれからに緊張しながらも晴れやかな顔ばかりだろう。
良かれ悪しかれ、これでひとつの区切りが着いたのだ。もう一度SeeDを目指して訓練をし直すなり、すっぱり諦めて就職先を探すなり、または一般生と共に進学を目指すなり、それぞれに決断しなければならない。
道は沢山あり、望む未来は1人ひとりが手に入れるものだから。
大ホールは、さわさわと落ち着かない空気で満ちていた。それはそうだろう、何せSeeD達は何も聞かされずに集められ、更にはそこに今日任命されたばかりの新米まで混ざり込んでいるのだから。
リノアは物凄い居心地悪さを味わっていた。
「ほら、あの子……」
「あぁ、スコールさん達のお気に入りの……」
「……『魔女』なんでしょ?」
ひそひそ、ひそひそ。
さざめきが聞こえない訳がない。リノアはそれを聞き流せる程、鈍感ではない。だが努めて平静を装い、目を閉じる。
バラム・ガーデンに住まう子供達は、それぞれの事情があり各国各地から来た者ばかりだ。幼ければ5歳前後から社会の一部として一種の国際交流を続けてきたのだから、言って良いことと悪いことの区別は付くし、その悪いことを胸に納めておくだけの分別の下地はある。それでも「魔女」に関しては皆、あまり抑えが利かないようだった。
「リノア、大丈夫?」
「あんなの気にすることないよ! 単なるやっかみなんだから」
カティア、シリル、メアリアーナの3人は、リノアを護るように取り巻いた。リノアは微かに微笑み、頷く。唇が、ありがとう、と呟いた。
扉が、静かに開かれる。
「待たせて悪い」
SeeD服を纏うスコールは、先程とはまた別のファイルを携えて現れた。そうしていると、少し前まで怪我の為に何日も眠り続けた人間とは思えない。
「皆、集まってくれてありがとう。突然の召集で驚いた人もいると思う。だけど、これからに関しての大事な話なので、どうか最後まで聞いて欲しい」
ホールが、しん、と静まり返る。
スコールは一呼吸置き、辺りを見渡した。
「ガーデンの運営システムを見直しするにあたり、SeeD部隊の方も再編成することになった。ついては、5つの攻撃隊と3つの救護隊に皆を割り振る。文句があるなら後から聞くので、とりあえず聞いてくれ」
皆が騒ぐという前提に基づいたその言に、お調子者がわざとらしいブーイングをしてみせた。くすくすと笑いが零れる。スコールもふと微笑い、手元のファイルを開く。
「まず、攻撃隊B班。班長はキスティス・トゥリープ」
「了解」
優雅に敬礼するキスティスの元に集められたのは、所謂万能型のSeeD達。何でもそつなくこなす彼女が率いるが相当だろう。
「同じくC班、班長はゼル・ディン」
「お、おう!」
緊張し気味のゼルの元には、主に格闘・白兵を得意とする者達が集められた。実直というか、熱血というか、とにかくそういうのが集まったのはまぁ、たまたまだ。
「D班、班長はセルフィ・ティルミット」
「はいはーい♪」
軽やかに手を挙げたセルフィの元には、魔法が得意な者、特殊な技術を扱える者を集めた。彼女自身、ほぼ初見でラグナロクを飛ばし、スロットという特殊な魔導機材を扱う免許を持っている。上手くやってくれるだろう。
「E班、班長はアーヴァイン・キニアス」
「えぇっ、僕!?」
「何か文句あるのか」
大抜擢に目を剥くアーヴァインの元には、射撃の得意な者を集めた。そしてこの選択には、ある目的も含まれている。
「残念ながらうちにはあんた程射撃の腕があるやつがいないんだ。専門教官になれそうなのもいない。だから、あんたには技量底上げの為の講師も兼ねてもらう」
「こき使う気満々じゃんか、ったくぅ〜」
がっくりと肩を落とすアーヴァインに、笑う者あり、慰める者あり。何故新人の下に、などとぼやく声もあるが、覆す意見は出なかった。
「さて、じゃあ救護隊の……」
「待ってください!」
ある女子SeeDが、さっと手を挙げた。一同の目線が、彼女に集中する。
「納得がいきません!」
「……編成がか」
スコールの問いに、彼女はこっくりと頷く。
「何故私が攻撃隊でなく、救護隊なんですか」
「実力があるからだ」
さも当然、とばかりにスコールは答えた。女子SeeDはきょとんとする。
「SeeDは傭兵部隊だ。傭兵である以上、どうしたって死と隣り合わせの危険な仕事が多いことは否定出来ない。だから、救護隊には実力のあるやつを集めたんだ。
……俺は、5歳の時からこのバラム・ガーデンで育ってきた。だから、ガーデンの連中を家族だと、思ってる。家族を守りたい、大事にした、い、と、思ってる……。
俺は、…………」
スコールは言葉を詰まらせると、少し俯いて口許を弄う。
「何度も言うけど、俺達は、傭兵だ。依頼者にとって、使い捨ての道具に過ぎない。俺達が本来、『護られるべき存在』だなんて気にも留めない。だから最悪の時には、俺達は見捨てられるだろう。
……俺は、それが嫌だ。俺にとって、皆は兄弟だ。兄貴が怪我して笑うやつがいるか? 妹が死んで喜ぶ奴がいるか? だから俺は救護隊の創設案を理事会に出した。救護隊に命じることはただ一つ、『怪我人の絶対帰還』!
俺は、誰1人死なせるつもりはない。何があっても、絶対連れて帰ってやる。その為なら何だって、どんな手だって使ってやるよ。あぁ、仮令魔女の力でもな! 何か文句あるか? あるなら言ってみろ、それが俺を納得させられるだけの良い案なら検討してやる」
スコールは辺りを睥睨した。
誰も、一言も発しなかった。彼に睨まれたからではない。ぶつけられた想いに、反論が出来なかったからだ。
自分達がそんな風に思われているとは知らなかった。彼が、それ程までに思い詰めているとは知らなかった。それ程までに、あの戦争は彼を穿ったのか。
静まり返ってしまったホール。スコールはばつが悪そうに視線を外すと、ファイルを持ち直して咳払いをした。
「文句がないなら、班分けを発表するぞ。
救護隊はA、B、Cの3隊だ。A班の班長はシュウ・レインズ」
「はいはーい」
指名されたシュウはお気軽に手を挙げる。普段のノリは軽いが、あれで凄腕のSeeDだから危険度の高い任地でも何とかしてくれるだろう。
「B班班長はニーダ・ルフトベルク」
「え、マジ!?」
ニーダは自身の鼻先を指して目を剥いた。周囲からは囃すような歓声が上がる。中には「頑張れ、『ガーデンを動かす男』!」という者もおり、ホール中が沸いた。
「C班班長、カイン・レクセル」
「了解。至らないだろうが尽力するよ」
青年SeeDはにこやかに頷き、敬礼した。
「最後に、攻撃隊A班のメンバーを発表する。班長は俺、スコール・レオンハート。以下各班班長……と後、リノア・ハーティリー、で構成するものとする。ぶっちゃけ名目だけの班なんで、基本的にA班としては派遣はしないものと思ってくれて良い。
ここまでで名前を呼ばれてないのは? いないな?」
手も声も上がらないことを確認し、スコールはファイルを下ろした。
「編成の発表は以上だ。後はそれぞれの班でミーティングなり何なりしておいてくれ。それと、ハーティリー」
「は、はいっ!」
朝とは別の緊張が、リノアの背筋を伸ばす。スコールは可笑しそうに目を細め、彼女に指を突き付けた。
「あんたは救護隊の方が終わったらこっちに来い」
「了解です!」
がちがちな敬礼に、そこかしこで小さな笑い声が零れた。それは好意的なものであったが、リノアの耳は恥ずかしさで熱くなった。
「他はミーティングが終わったら解散。夜は就任パーティーだ。新人はSeeD服、他のは適当に盛装してくること。国内外からの来賓がくるから、失礼のないように」
『はい!』
ザッ! と一糸乱れぬ仕種で敬礼を見せる彼等は、既に一端のSeeDの顔をしていた。
午後5時、SeeD就任パーティーが始まった。
パーティーはガーデンの内部のみで行われる訳ではない。バラム国政府の重鎮を始めとして、各国のお偉方が数多く集まっていた。先程まではやれ新人の紹介だ売り込みだと忙しなくしていたホールも、今はひと段落して落ち着いている。
名目上今回のホストとなっているスコールも漸く挨拶回りを終え、リノアを伴ってバルコニーに出ていた。ここに来ると、少しだけ喧騒が遠のく。華やかなワルツも音が丸くなり、ただただ優しく穏やかだ。
スコールは空を見上げていた。リノアはただ静かに隣に寄り添っている。腕を絡めて寄り添うその姿は、仮令一方が緊張気味だとしても、十二分に甘やかなものであった。
2人は、ワルツが終わるのを待っていた。
「……ねぇ」
緩やかな静寂を破り、リノアが口を開く。スコールは空にかかる金輪から目を外し、リノアを見た。
「どうして、わたしをSeeDにしたの?」
「…………」
スコールはやっぱりきたか、という風に頭を掻いた。答えてくれないと思ったのか、リノアは慌ててまくし立てる。
「だ、だってさ、ほら、わたしどう考えても力不足じゃない」
「まぁな……正直、SeeDとして望みたい力量には全く足りてないな。はっきり言って、未熟だ」
あっさりと肯定され、言い出したリノア本人がぐっと詰まる。
スコールはくす、と小さく微笑うと、身体を反転させ、半身をバルコニーの手摺りへもたせかけた。
「……だけど、気概は買う。2週間そこそこで良くやったと思うし、勘も悪くない。キスティスに聞いたぞ。お前、皆を護ってくれたんだって? タイミング良くプロテスを発動させるなんて、なかなか出来ないぞ」
「あ、あれは本当にたまたまだよ。何か不安で落ち着かなくてイライラして、たまたま弄くってた魔法カートリッジに、プロテスが入ってただけだよ」
「それが『勘が良い』って言ってるんだ。皆、俺も含めて、『たかだか試験だ』って思ってた。不安でもそれは合否に関してで、正SeeDがいるからには決して死なないって、頭のどこかで信じてた。それに俺達はバトルになると、普段よりも自分の生命を捨ててしまう。諦めが早いというか……そういう風に訓練されて、バトル中には決して『死への恐怖』なんて考えないようにしてる。これはSeeD全体に言える悪い傾向だな……。
でもリノア、SeeDとして訓練されてないお前だけは、『死の危険』に反応して皆を護ってくれた。俺達には、きっとそれが必要なんだ。だからお前をSeeDにした」
「……わたしは、魔女だよ?」
「だから何だ。魔女だろうと何だろうと関係ない。ほら、『立ってるものは親でも使え』って言うだろ?」
傲然と言い放つスコールに、リノアは思わず噴き出してしまった。
「ちょ、そんな、真面目に言い切らないでよ……!」
「だって、事実だ」
スコールは胸を張る。リノアはあまりに可笑しくて、お腹を押さえて苦しそうに身を捩った。それにつられ、スコールは柔らかく相好を崩した。
ワルツが、終わる。
「リノア」
スコールはリノアへ手を差し延べた。リノアは当然の様に、手を重ねる。次のワルツが始まり、その前奏に乗って、2人はごく自然にダンスの輪に紛れ込んだ。
思えば、始まりはこのワルツだった。
あの時はまだお互いの名前も知らなかった。リノアはシド学園長に渡りをつける為にサイファーを捜していたし、「人嫌い」のスコールは踊るつもりもなく引っ張り回されて戸惑っていた。
それから、長かったような短かったような――。あの時は、こんな風に指の先まで愛情を込めて触れ合うような関係にまでなるなんて、考えてもみなかった。
漆黒のSeeD服をまとい、輪の中心に位置した彼らは、決して目立ちはしない。来賓や新米達が踊りやすいようにと司令官自らがステップを踏んでいる、そう見えただろう。
不意にスコールと目が合い、リノアはにっこりと微笑んだ。スコールはわずかに視線を外し、影の中で微かに笑みを返す。
「……本当は」
突如、スコールが口を開いた。
「本当は、俺が傍にいてほしかったんだ。いつも、どんな時も、俺の傍に……」
「……スコール」
「要するにエゴなんだよな、俺の。俺はSeeDだから、任務があればどこにでも行く――リノアが一般生徒である限り、置いて行かなきゃいけない。でもリノアをSeeDにすれば、任務に一緒に連れていける。そう、思ったんだ。思っちゃったんだ。SeeDになれば、否応なしに危険な任務に出ることもあるだろうし、そうなるとどんな風に傷付くかもわからない。だけどそれでも、傍にいてほしかったんだ。ごめん、リノア……本当に……」
その痛みを伴った言葉がどれ程にリノアの胸を揺さぶったか。感極まったリノアは、溢れてしまいそうな涙を堪え、スコールのリードに合わせてステップを踏む。くるりくるりと優雅なターンで魅せ、ふわりと彼の胸に納まって――照明が落ちたその瞬間、リノアは爪先立ちで伸び上がってキスをした。
途端、真っ赤になるスコール。
「スコール、わたしあなたの役に立てる?」
リノアは瞳に熱情を込め、スコールを一心に見つめていた。スコールはすぐに何かを返すことが出来ず、暫し薄く唇を開いたまま、彼女を見つめ返す。
「……役に、なんて……立ってくれなくても構わない」
その腕が、するりと彼女の肩から落ちた。
「役に立たなくて良いんだ。本当、一緒にいてくれたらそれで」
「でもわたし、護られてるだけなんて嫌だよ」
スコールの言葉を遮り、リノアは彼の袖を掴む。
「わたしにもスコールを、皆を護らせて。わたし、だからSeeDになりたいって思ったんだ。
確かに、わたしは魔女かもしれない。魔女だから、スコール達のようには仕事が出来ないかもしれない。だけどスコール、使える時はわたしを使って? そりゃあ、皆に比べれば、猫の手だけど……うー」
自分で言っておきながら少し凹んだリノアに、スコールは小さく噴き出した。そして、その肩を数度叩いてしっかりと抱いた。2人は輪の外へ歩き出す。
「わかったわかった。気持ちはよーくわかった。だからガーデン運営の仕事は他の奴以上に手伝ってもらうぞ。そうだな……俺達A班は基本的に司令室が仕事場になる訳だけど、リノアにはとりあえず、書類と司令室の郵便を取り纏めてもらおうか」
「うん」
「対外的な報告書とか契約書だとかの誤字脱字のチェックは地味に重要だからな、気を抜くなよ」
「が、頑張ります」
「後、他の班と司令室の間の伝令な。一応書面を持っていかせるようにするつもりだから、そんなには負担にならないと思うけど」
「はいっ」
「まぁ、その辺りはおいおい覚えてもらうとして……」
スコールが足を止め、数歩遅れてリノアも止まる。何事かとリノアが振り返ると、そこにはスコールの柔らかな笑顔があった。
スコールは右手を差し出す。
「SeeD試験合格、おめでとう。これからよろしく、SeeDリノア・ハーティリー」
リノアはこの日最高の笑顔を見せ、その手をしっかりと握り締めた。