「おはよう、蓮」
おはよう。
まぶしい光が目に刺さる。
「ゆっくりしてるのも良いけど、あんまりしてたら遅れるわよ?」
遅れる? 何に?
思い出そうにも、何も出て来ない。
「今日は24日よ?」
何かあったか?
普通の日だろう?
「やぁね、バースデーコンサートじゃない」
バースデー……?
「せっかく先輩たちが忙しい合間を縫って企画してくれたんだから……ほら、早く」
ちょっと……もうちょっと待ってくれ……
もうちょっとだけ……
「月森くん?」
呼び声に、ぱちっと目を開けた。
「……日野……?」
自身を覗き込んで呼びかけていたのは、間違いなく彼女のようだ。
木漏れ日の逆光でよく見えないが。
まだ消えきらない眠気に、あくびが零れた。
「あー、よかった。気絶してるのか寝てるのか、よくわからなかったんだよ」
何故、と問えば、彼女はすぐ近くの地面を指差した。
草の中に、小さなボールが1つ。野球のだろうか。
「……ただ寝てただけ、だが?」
「うん、だからほっとしたー」
そう言うと、彼女は俺の隣に座った。
「ねぇ、月森くん。今日が何の日か覚えてる?」
「何の日? ……普通の日だろう?」
今日は4月24日だが、取り立てて何があったわけじゃないはずだ。
彼女は笑い出した。
「あははっ、やっぱり忘れてるんだ!」
無礼なほど笑う彼女。
「……一体なんだ?」
「今日誕生日でしょ?」
そのとき、急にさっきの夢を思い出した。
「……バースデーコンサート」
思い出した言葉をポツリと零すと、彼女は意外だ、と目を丸くした。
「あれ、それは覚えてたんだね」
「と、言うと?」
「音楽室でミニコンサートやるんだよ、セレクションのメンバーで。
放課後空けといてって、昨日言ったでしょ?」
あれはこのことだったのか、と昨日の帰り道のことを思い出した。
「……嬉しくなさそうね」
「別に先輩たちに祝われても嬉しくない……」
ぽろりと本音が零れた。
彼女はくすくす笑うと、するりと身を起こした。
「まぁまぁ、とにかく行こうよ」
手を引かれて立ち上がろうとした瞬間、ふっと視界が甘い香りに埋められた。
「ホントのお祝いは、蓮くんの家で、ね」
……立ち上がるのが遅れたのは、間違いなく彼女の言葉のせいだ。
そう、俺は思った。
「そういえば、寝てるとき何か夢見てた?」
「何故?」
「だって、もうちょっと、とかって言ってたよ」
「あぁ……朝起きるのに、急かされる夢を見たんだ」
「誰から?」
「……君から」