「持って帰ってください!」
そんな大声が響いたのは、夏も近づき始めたある放課後。
何の騒ぎかと、水場にテニス部員達が集まってくる。
「何が起こったんですか」
「部長」
「部長、何とかしてくださいよ〜」
そういう部員の手にあるのは、レギュラー用のポロシャツ。
何故だか中途半端に掲げるように、胸の辺りに持っている。
「さんが、洗濯物持って帰れって言い出したんです…」
「当然でしょっ!」
憤慨して仁王立ちする。
「タオルは洗うって言ってるんだから、ポロシャツぐらい持って帰って!」
(またあいつが台風の目か…)
おろおろしている大石を後目に、手塚は人知れず溜息をついた。
「さん、どうしても駄目ですか?」
「ど・う・し・て・も、ダメです」
部長の諭しにも応じない、青学一年生マネージャー。
何となくその場にいる手塚以下の一年生部員達は、随分と居心地悪そうだ。
「他のマネージャーさん達は別に良いって言ってますよ?」
「甘すぎです」
現一年生の中で誰よりも背が高い彼女は、キッと相手を見据えている。
対する大和は、「どうしましょうか」と結構のんきだ。
「何で嫌なんですか」
「別に人のを洗うのが嫌だってだけで言ってるんじゃありません。当然のごとく渡してくる姿勢が嫌なんです」
背が高いと言ったって、三年生で成長期真っ只中の大和と比べると、彼女は随分と小さい。
しかし、その傲岸不遜な態度は、彼女を実物よりも大きく見せていた。
「あれをしろ、これもしてくれって言うんだったら、負担を減らせって言ってるんですよ
きついからって辞める人もいるんですよ?もう一年生は私だけなんですから!」
それを何とかタオルだけは洗ってやるから服ぐらい家で洗え―――と、は言っているらしい。
「出来れば、タオルだって持って帰って欲しいくらいなんですよっ」
「…わかりました、ミーティングの時に通達しておきますよ。
一年生の皆さんは、できるだけ早く戻ってきてくださいね」
大和は苦笑し、の頭を一撫でしてテニスコートへ戻っていった。
後に残されたのは、一年生9人+1人。
最初にに寄っていったのは、不二周助だった。
「…よく、言ったね?あんなこと」
感心したのか呆れているのか、不二はを見上げて言った。
「普通言えないよ。一年生でしかも女の子だったら」
その言葉に、は困ったようにへにょっと笑った。
「一年生で女の子でも、言いたいときは言いますよ」
足元に転がっていた鉛筆とボールを拾い上げ、それに、と付け足す。
「ちょっとでも余裕があったら、皆のこと気遣えるでしょ?」
彼女は、にっこりと笑って見せた。
まるで五月晴れの空のようなさわやかさで。