一年生　その２

　暫く同じ教室で共に授業を受けていると、だんだんクラスメイトがそれぞれどんな性格をしているのか解ってくる。
　授業中でもおどける者。
　至極真面目な者。
　神経質な者に、おおらか過ぎて「鈍感」とさえ称されてしまう者。
　手塚国光は自他共に認める「至極真面目な者」だ。
　殆ど余所見と言うものをしない。
　対するお隣―― という少女は、授業中でも平気で後ろや隣の子とお喋りを始めたりする。
（そして、いつもの通り先生に怒られてはたかれる、と）
「あいたっ」
　珍しく盗み見していた手塚の予想通り、は数学教師から頭をはたかれた。
「ちゃんと授業を聞きなさい」
「聞いてますよー」
「ウソつけ、さっきまで隣と喋ってたじゃないか」
「でも聞いてましたー」
　いつもの問答だ。
　だが、今日はほんの少しだけ違っていた。
「じゃあ、前に出て黒板の問題解いてみせなさい」
「はいはい…っと」
　さも面倒そうに立ち上がると、黒板の前で腕組みをして問題を読む。
　そしておもむろに長いチョークを手に取ると、手早く解法を書き出して見せた。
「…結構。座ってよろしい」
「はーい♪」
　教師の渋面を物ともせずに、足取り軽やかには自分の席へと戻る。
（案外、真面目に聞いてるんだな…最も、『聞いてる』であって『聴いてる』じゃないが）
　手塚はそんな感想を抱いた。

「、ちょっと訊きたいことがあるんだが」
　数学が終わって、手塚はに声をかけた。
「ん？何々」
　手塚が先程の問題について問うと、は「んっとね…」と説明を始める。
「………と、いうことなんだけど。ＯＫかな？」
「成る程な。予習をしてきていたのか？」
「んーん」
　思い切り否定されて（しかもかぶりを振って！）、手塚は少々面食らった。
「あの程度なら、考えるくらいでいけるけど」
「そ、そうなのか？」
「うん。発展って言ったって、やり方は一緒だもんね。まぁ、だから出来たってのも大きいけど」
「あぁ、そういうことか…」
　軽い嫉妬を覚えていた手塚の気持ちが収束する。
「…じゃあ、復習はやってるんだな」
「そりゃあね」
　えへへ、とが笑う。
「ここって結構速いもん。その日やったことはその日やらないとわかんなくなっちゃう」
　速い、というのは進度のことだ。
　数学のみならず、英語だって国語Ⅱ（古典）だって速い。
　手塚も置いていかれないように予習復習は欠かさない。
　だから、の言うことには共感が持てた。
「さって、次移動だから早く行かなきゃ！」

　伸びをしながら立ち上がる少女の体には、はちきれんばかりの生命力が宿っていた。