二月だというのに珍しく雪が降った、そんな寒い日。
自分達が、行きたいと願ったトコロに行けるかどうかが決まる日。
「如何したの?」
そう声を掛けられたのは、偶然だったのか必然だったのか。
「おんなじクラスになるといいねぇ」
あの暖かい手を、覚えている。
真新しい制服に身を包み、手塚国光は宛がわれたクラスの席に座っていた。
周囲はすでに新しいクラスメイトと仲良くなろうと声を掛け合うのが聞こえている。
隣の人間も言うまでもなく、手塚に声を掛けてきていた。
お互いに「よろしく」と言い合う、当り障りのない会話。
受験で来たから当然なのだが、手塚はこの青春学園に小学校からの知り合いはいない。
特に寂しいとも感じない。真新しいせいで、疎外感もない。
ただ、手塚は1つ気になっていることがあった。
漠然とした、1つの期待。
合格発表の日に名前を聞きそびれた少女が、同じクラスかどうか。
「皆、おはよう。席についてー」
女性教師が入ってきて、クラスメイト達がばらばらと席につく。
…と、何故か手塚の左隣が1つ余った。
「あら、入学早々…」
「すいません、遅れました!」
遅刻者ね、と言おうとした教師を遮る形で、長い髪を高く纏めた少女がドアをガラッと開けた。
「名前が、見つけられなくて…すいません」
苦笑いで頭を掻く少女。
ぱっとクラス中が沸き返る。
「いいのよ、でも明日からは気をつけてね」
「はーい」
手をあげて元気良く返事をする少女の姿に、またクラスが沸く。
「じゃあ、席について」
「と言っても席番おかしくないですか?」
少女は不思議そうに手塚の隣を指して首を傾げる。
「あぁ、暫くの間は適当に決めた所に座ってもらうんだけど…選択権、ないわね」
「窓際あきらめまーす」
あははと笑うと、彼女は手塚の隣に持っていた鞄を置き、すとっと座り込んだ。
「…あ、お隣さん見覚えある」
手塚にとっても見覚えがあった。
服装こそ違うが、確かにあの日出会った女の子だ。
「同じクラスになれたね、これからよろしく」
そう言って、少女は手を出した。
手塚も自然と握り返す。…いつもなら、こういう事は苦手なのでしないのだが。
「うん、よろしく」
互いに一瞬強く握り合って、すぐに離す。
それは、これからのはじまり。