Lullaby



笑えるくらい、引き金は軽かった。
報告を終え、まだ課業中の内勤組に軽く挨拶をしてから自室に引っ込む。最低限の装備を外してそのままベッドに飛び込んだ。
―俺は銃、向かないな……
軽すぎるそれが、無性に怖かった。
まずもってこういう柔な神経が、この仕事に向かないことにはとりあえず目をつむる。
適当に言って、なるべくガンブレードで出られる任務を回してもらおう。傷の加減も峰打ちも出来る愛刀が自分には一番だと。そう決めて寝返りをうったが、一向に眠気は訪れてはくれない。けっこう強行軍で進んで、疲れているはずだし、寝てしまいたいのだが。そんなふうにただ寝返りばかりしていたところでノックの音がした。
「おハロー」
「リノア……悪いけど俺、」
「今日帰ってくるって聞いてね、ちょっとでいいから、外行こうよ!」
「は?え、あ、ちょっと」
ぐい、と引っ張られてそのまま外へ連れ出される。外とはいっても敷地内の中庭だった。
直射日光に晒された芝生まで連れられて、仕方なしにそこへ座る。思っていたほど日差しはきつくなくて、自室に射し込むそれとは別物みたいだった。
隣に座ったリノアはにこにことマシンガントークだ。俺は疲れてるんだけどな。そんなセリフすら挟めなくて、適当な相槌を入れながら聴いて(いるふりをして)いた。
ジェニーが、とかフレッドってば、だとか、ずっととりとめもなく話し続ける彼女に少し違和感を覚えながらも聞き流していると、だんだん瞼が重くなる。ろくに相槌もうててない気がするが、リノアは気にした様子もない。
最近はこんな自分のことばっかり話さなかったのにな。そう思ったところで意識がブラックアウトした。



歌が聞こえる。あれは、俺が好きなバンドのバラードじゃなかっただろうか。ピアノアレンジがすごく好きで……

浮上した意識を自覚したあと、感じたのはさっきと変わらない柔らかい日差し(そこまで日が傾いてないからきっと寝こけていたのは短時間だろう)と、さっきとは違う自分の姿勢。これはいつだったかアーヴァインが憧れだのなんだのと言っていた膝枕じゃないか?そういえばあの時は妙に熱の入った話し方で……って俺、まだ寝呆けてるな。
「あ、れ」
「起きた?どう?リノアちゃんのお膝は」
「ん、寝心地いい……いや、そうじゃなくてだな」
身を起こすと得意気に微笑むリノアがお疲れ様、と存外優しい声音で言う。
「興味ない話が一番の寝物語だよね」
「悪い」
「んーん、わざとだもん。あ、でもスコールの好きな歌を歌ったのは間違いだったかな?起こしちゃったよね」
「いや……」
ということは登場人物に何の説明もなかったのも、相槌も気にせず喋り続けたのも、俺を寝かせるためだったということで、さらには恐らくこの日当たりのよい穏やかなこの場所もそのためで。
「気、遣わせたな」
「いいんだよ、甘えても。守られるだけは嫌って言ってるじゃない?だからね、こっちはリノアちゃんの管轄ですよ」
そう言って俺とリノアの左胸を順に叩く。
ああ、分かっているんだ、俺の状態を。そう思ったら、するりと口が開いた。
「……俺、銃、嫌いだ」
「うん」
伝えることを意図しているかどうかさえ怪しい、自分の音量と声音。語尾が震えているような気さえした。
「軽いのに重いなんて、扱えない」
「うん」
「SeeDなのにな、銃なんて基本なのに」
「……うん」
「今更人と戦うのが嫌だとか、言わないけど」
だって何度もこの手は汚れて。だから言ってはいけないけど。
「銃を使ってる人たちをどうこう言うつもりもないけど。……背負えなくなりそうで、あれは怖い。けど同時に、もしかしたらもう、背負ってないのかもしれないって思うんだ。よくわからないけど、いろんなものがぐちゃぐちゃで」
俺は、この暖かい場所で、なんて血生臭い話をしているんだろう。どろりとした濁りの混ざった思考が気持ち悪い。気がつけば自分のつま先をにらんでいた。
「うーんと、ね、スコール」
「?」
「ちゃんと、背負ってるよ。潰れちゃわないか心配になっちゃうくらい」
「そう、かな」
「だからね、自分で重石を追加しないの」
外れた視線を合わせなおすみたいに両頬を掴まれて顔を持ち上げられる。
「綺麗なだけの屁理屈は言わないよ。奪ったものは奪ったものだもの」
そうやって、最初に少しだけ厳しいことを言う彼女はきっとこれから俺を甘やかすために言葉を紡ぐ。
「でも、少しでも奪うものを減らそうとする貴方を尊敬する。無茶しないか心配だけどね」
ウインクを付け足しながら、リノアは続ける。
「怖がっていいんだよ。今更とか、封じちゃわなくていいんだよ。無理に大丈夫にならないで。貴方だけが、悪役にならなきゃいけない理由はないんだから」
やたらめったら背負い込んで、自分で勝手に苦しくなっていた分を、綺麗に取り去ったのはリノアの魔法なのかな、とぼんやり思った。
やらなきゃやられるんだから仕方ない、みたいな、同業者同士の傷の舐めあいよりずっと、支えになる言葉たちだった。
「……ありがとう」
「ふふ。どういたしまして」
「リノア」
「はいはい?」
「やっぱり、膝貸してくれ」
「喜んで」
言ってから気恥ずかしくなった俺とは対照的にとんとん、と膝を叩いた彼女は妙に嬉しそうで。
「子守唄もつけてあげよっか?」
「それ、いいな」
アンタの声ならいい夢見れそうだ。
そんな返事が返ってくるとは思っていなかったのか、リノアは少しの間瞠目してから、柔らかく微笑んだ。そうしてさっきの続きと言わんばかりに小さく歌いだすのは優しいバラード。

end.



相互リンク先の「落書きTomorrow」鴇様から、な、何と相互記念作を頂いてしまいました!!
お題が「日向ぼっこするスコールを甘やかすリノア」という何たる無茶振り加減ww やばいよ、氷月の贈り物と釣り合ってない!!(※氷月は『春の雨』を献上しました)
とにかく、空気感にノックアウトされました。傭兵の悲哀……うちの暢気組ではこうはいかない(>_<)
鴇様、素敵なお品をありがとうございましたvvv