恋バナLv3



もともとは、ライトの居室に招かれて、お茶をしていただけなのである。
憧れの先輩の部屋ということもあって最初は落ち着かなかったフリオニールも、1時間もすればすっかりリラックスしていた。
ライトの穏やかな人となりがそうさせたのだ。
そこにローザが焼いてくれたというクッキーを持参したセシルが加わって、ガーネットから貰った紅茶を持参したジタンと、リノアのお土産であるチョコレートを持ったスコールまで来たのだった。
男子寮生のものとは思えないほど一気に賑やかになるテーブルの上に、ライトが微笑んだ。

「優しい恋人をもって君たちは幸せだな」

心からの賛辞に、三者三様に頬を赤らめた。
セシルは照れ顔を隠さずに、それでも誇らしげにそのクッキーを摘まむ。

「ローザは優しくて…しっかりしてるんだ。これも、お菓子なら市販のものより手作りのほうが体にいいでしょって作ってくれたんだ。僕にはもったいないくらいだよ」

蕩けそうな笑みを浮かべるセシルを見て、フリオニールは自分まで嬉しくなってしまう。
確かに女子寮の副寮長も勤めるローザは、しっかりしているだろうし、傍目にも柔らかい雰囲気を纏った美女だ。
セシルは謙遜したが、見た目も性格も絵本の中の優しく凛々しい王子様のような彼とは、お似合いのカップルとしか言いようが無い。
ジタンはジタンで、

「オレは『ジタンはどうせ口に合わないなんて言うんでしょう?先輩たちに差し上げて』なーんて言われちまったけどな」

と惚気る。
スコールは少し染めた顔のまま、むっつりと顔を横に振るだけだが、照れているのだろう。
不機嫌とは違う空気が微笑ましい。
そんな彼らの惚気を交えながら、お菓子に紅茶に手が進む。
のんびりとした時間が過ぎていく予定だったが、ふいにセシルがライトに水を向けた。

「そういえば、ライトって彼女はできた?」

実はこのすこしくすぐったい話題になってからフリオニールが一番気になっていたことなのだが、ライトは意外そうに目を瞬かせた。
彼からは浮いた話1つ、聞いたことが無い。
付き合いの長いはずのセシルが聞くというくらいのようだ。
綺麗な顔に逞しい体、優秀な成績に、責任感が強く物怖じしない男らしさ、冗談も通じる包容力、どこからどう見ても完璧なこの好青年に想いを寄せる女性はたくさんいるだろう。

「いや、さっぱり」

さらりと答える口元は穏やかに微笑んでいる。
真っ先に大袈裟な反応をするのはもちろんジタン。
「嘘だ!」と叫びながら尻尾をピンッと尖らせて左右に細かく揺らす。
セシルは答えてくれて嬉しいのか、にこにこと質問を重ねる。

「じゃあ好きな人とかいないの?」

まるで女子のノリだが、気になるフリオニールは突っ込まない。
スコールもじっとしている。
ライト以外のメンバーはカップを置いて彼を注視していた。

「そう、だな…。2年前くらいに1つ上の先輩が好きだったな。彼女は専攻科には進まず卒業してしまったが」
「え!」
「だれだれだれ?僕その人知ってる?」
「どんな子!?可愛い系?綺麗系?セクシーとか?」

むしろライトでも片思いするのかと驚くフリオニールだったが、セシルとジタンは目を輝かせて前のめりになっている。
ライトは紅茶を一口すすってから、

「秘密だ」

とさらりとかわす。
「「えー」」と、揃って尖った2対の唇の隣で、スコールが首を傾げた。

「告白しなかった、んですか?」

顔には直球で告白しそうなのに、告白したら普通に成功するだろうに、と書いてある。
ライトもそれを読み取ったのか、苦く笑った。

「私にだって繊細な部分くらいあるぞ。まあ、告げようにもその先輩が別の人が好きだと知っていたからな」
「うわせつねー!!」

大袈裟に叫んで両手で顔を覆うジタンだが、その尻尾はやっぱり楽しそうである。
でも、とセシルはなおも募る。

「その後でも前でも、告白してきた子の中に、付き合ってみてもいいかなっていうのはなかった?」

質問に、これはワザとだろう、少し憮然とした表情を作ってライトは腕を組んだ。

「告白など、されたこと無いが」
「嘘だ!」

フリオニールは思わず叫んでいた。
だって、クラスの女の子たちだってみんなかっこいいと言っているのに。
勢いにびっくりしたのか、ライトが軽く目を開く。
一拍おいて込み上げる恥ずかしさにフリオニールは俯いた。

「す、すみません、急に」
「でもフリオのいうとーり、冗談だろ、ライト」

セシルが笑いながら出す助け舟にも、ライトは小さく首を傾げた。

「本当だ。あいにく異性にモテたためしが無い」
「それは…」

ここで口を挟んだのは意外なことに難しい顔をしたスコールだった。

「先輩に、つりあう自信のある女子なんかそういないからでは」
「あー、そうかも。好きでも私なんかが、って思われてそうだよな」
「なるほど」

スコールの考察に大きく同意するジタン。
フリオニールもさすがの意見に頷いた。
隙がなくて、告白したりアタックする前に諦められてしまうのだろう。
自分だってライトから声をかけてくれなければ、ただの憧れの先輩で終わっていたに違いない。
こんな風に仲良しグループとして集まって、年相応の色めいた話をすることなんて、入学当初は想像出来なかった。
ライトは「そんな大した人間ではないのだが…」と異論ありげだが、そういうことは本人には分からないものである。
スコールがチョコレートの金の包み紙を開きながら言う。

「先輩には、積極的で明るい人がいいんじゃないですか」
「リノアちゃんみたいな?」

ジタンがすかさず入れる茶々に、彼は目を反らす。
ジタンはリノアのことを知らないはずだが、どこからか彼女の情報を仕入れたのだろう。
ちゃっかりしたもんである。
するとセシルが割り込む。

「いやいや、しっかりしてて尽くしてくれる女の子がいいよローザみたいな!ローザは駄目だけど」

楽しそうな表情は、スコールの発言を変化球の惚気にする気満々だ。
ジタンも便乗する。

「いやいや、一緒に頑張れる子がいいって!大人しそうな見た目に反して行動力があるみたいな!あ、ダガーは渡さないけど」

二人がくすくす笑うと、スコールが居心地悪そうに体を揺すった。
なんだか平和だ。
話題ゆえにフリオニールは蚊帳の外気味だが、彼らのやり取りを見守るのは楽しい。
ライトは「選べる立場ならいいけどな」とぼやいてから、ふと柔らかい表情をフリオニールに向けた。

「君はどう思う?」
「え、俺!?」

いきなりふられたが、フリオニールは常々思っていることがあるので、せっかくの機会あやかって提案してみる。
顔が赤くなるのは止められそうに無い。

「俺は、やっぱりマリアとくっついてもらえれば、嬉しいかなって思います。義理の義理のでも、兄弟になれる、から。あいつ、口やかましいけど、なんだかんだ優しいし…」
「ほんとにフリオはライトが好きだなー」

セシルが感心したように言う隣で、ライトは神妙な顔をした。

「しかしそれでは君にやきもちをやかせそうだな」

やきもち。
どういうことだろうと、後から考えれば馬鹿馬鹿しいような質問がフリオニールの口から零れた。

「それは、どっちに」

するとライトを除いた三人は、諮ったかのように

「「「どちらにも」」」

と声を揃えた。
スコールまで、である。
そうかなと思いながらフリオニールは大事な義妹マリアと、憧れの先輩ライトが寄り添う姿を想像してみた。
それから二人が二人だけの世界に入って自分に構ってくれなくなることも想像してみた。
耳の先が、熱くなった。
確かな寂しさが、生々しく感じられてしまったのだ。

「そうかも…」

素直にテーブルに突っ伏せば、朗らかな笑い声が部屋を満たしたのだった。


あさと様運営の「JumpJiveJump」で2万HIT企画としてフリーリクエストをなさっておられたのを見て、氷月は「軍専パロ(氷月注:あさと様はDFFで学パロを書いてらっしゃいます。それが「幻想軍事高等専門学校」、略して「軍専」)かDFF本編で、恋人に関するお惚気合戦」というリクエストをしてまいりました。我ながら何という無茶振りww
あさと様、転載許可ありがとうございますm(_ _)m