招待状に従って、スコールは3階の大ホールに向かう。
 何だろう、何の招待状だろう。招待状、と言うからには良いことがあったのだろうが、最近何か特別祝うような事柄はあっただろうか。
 彼は、気付いていなかった。
 今日この日、8月23日は自分の誕生日である、という事実、それを仕事に忙殺され、綺麗さっぱり忘れていることに。
 スコールは、ホールの扉に手をかけた。力を込め、扉を内に開く――。
『Happy Birthday!!』
 パン、パパン!
 盛大な祝福が、紙テープと共にスコールへ降り注いだ。
「は……?」
 きょとんとするスコール。
『Happy Birthday』(誕生日おめでとう)? 誰の――俺、の?
「さぁさぁ、何時までボケッと突っ立ってるんだい?」
「今日はお前の為に、皆頑張ったんだぜ!」
 アーヴァインとゼルに連行され、スコールはあれよあれよと部屋の中央に引きずり出された。
 目の前のテーブルには、大きめのホールケーキ。その上に乗っかっているチョコレートプレートには、『Happy Birthday Squall』と書いてあった。
「…………」
 スコールには、言葉も無い。
「さ、誕生日のケーキにはロウソクをつけないとね」
 シュウが無造作に、手持ちのロングライターで火を付けていく。その数は、今年スコールがなる年齢と同じだった。
「よっし、皆行くよっ! せーのっ!」
 両手を大きく振るセルフィの掛け声に従って、ホールに集まった皆が歌う。
 在り来たりな祝いの歌が、スコールの胸を満たしていく。それが涙となって溢れそうで、スコールは慌てて口許を拳で隠し、目瞬きをしきりに繰り返した。
「スコール」
 そっと、優しい手がスコールの背中に宛がわれた。見れば、リノアが優しく微笑んで頷く。
 スコールははにかんで少し俯くと、息を大きめに吸ってロウソクの火に吹きかけた。願いを込められたその風に、小さな炎は一瞬揺らいですぐに消えた。
 皆の拍手が、スコールを包む。
「お誕生日、おめでとう」
「おめでとさん、スコール!」
「おめでと、いいんちょ!」
「ハッピーバースデー!」
 皆は改めてスコールに祝辞を述べ、ささやかなプレゼントを渡した。
 ゼルが部屋の隅にある小箱の山を指し示す。
「今日来れなかったヤツらからも届いてるから、後で部屋持ってくな」
「……あぁ」
「さぁ、ケーキ切ろっか。スコール、楽しみにしてただろ〜?」
 アーヴァインはケーキナイフを取り上げると、キスティスと手分けしててきぱきとケーキを割っていく。ゼルとセルフィが皆に配り、リノアに2つ手渡した。
「はい、お誕生日おめでとう」
 リノアは、スコールのケーキに白い陶器の天使を添えて差し出した。
 スコールは皿を受け取ると、天使をマジマジと眺める。
「これは?」
「本当は、ガレット(焼き菓子)の中に入れて『王様』を決めるんだけどね。今日はお誕生日だから、スコールは無条件に『王様』なの。というわけで形式的には、これはスコールに当たった、ってことで」
「ガルバディアの風習か」
 確か、豆は豊穣、コインは財産、天使は幸運を恵まれるのだというものだ。ちなみに言うと、本来は年始の運試しである。
 リノアは金色の王冠をスコールの頭に置いた。
「『おめでとう、恵まれた方』」
「……ってそれ、確かオンナに向かって言った台詞だろ」
「いいの! 意味的にはオッケーだもん」
「またアバウトな……」
 スコールは大袈裟に頭を振り……泣きそうな顔で笑った。
「……ぅ」
「え?」
「ありがとう、リノア。みんなも。俺……俺、初めて、誕生日が嬉しい、って思った」
 あぁ、どうしよう。こんなの、ガラじゃないのに。胸にいっぱいになったものが、溢れて溢れて止まらない。
 皆は互いに顔を見合わせた。
「ははっ、泣くなよお前ー」
 ゼルがからかうようにいいながら、スコールの首に腕を絡める。
 その2人の肩に触れて、セルフィがにっこり笑った。
「そんなに喜んでくれたんなら、あたしたちもやった甲斐が有ったよー」
「でもね? スコール。もし良かったら、笑って頂戴。今日の記念に、皆で写真撮りましょ? その為にも、笑っていてくれなくちゃ」
 キスティスが手にしたカメラを振り、にっこりと微笑む。リノアがはい、とハンカチを差し出すと、スコールは頬を拭ってほんのり微笑み返した。
「さぁ、並んで並んで! 並んだらシャンパングラス配るよ〜!」
 アーヴァインの掛け声に、皆は自然とスコールとリノアを中心にして集まる。フレームに入らないからとぐいぐい押してくるのが可笑しくて、いつしかスコールも声を立てて笑っていた。
「皆、シャンパングラスは行き渡ったかしら? さぁ、行くわよ。セルフタイマーは10秒だからね」
 キスティスが手ごろなテーブルにカメラを置いて、タイマーをセットした。
 そして――――。



「何、見てたの?」
「ん?」
 ノートパソコンの前でほんのり微笑んでいるスコールに、リノアは後ろから張り付いた。
「こんなの、見つけて。思い出してた」
「あぁ!」
 見せられたのは、『あの日』の日記。
「あれは、楽しかったねぇ」
「あぁ……初めて、嬉しいと思った誕生日だった。それにしてもお前、勝手に人の日記書くなよ」
「えへへ。だって、嬉しかったんだもん」



   DATE:23 August

   今日はスコールの誕生日♪  ←勝手に人の日記に書き込むな
                                    』

 Fine.



意地と根性第2弾。スコ誕にかこつけて、みんなの絵を描いただけともいうかも(笑)
とりあえず、スコールお誕生日おめでとう! これからもリノアやみんなと仲良くね★



↑皆様お誘い合わせの上、お越しください☆ いいスコリノざっくざくです。