ルークとシナリオ監修を務めた史学教授との交渉は、見事成ったらしい。大幅に見直されたシナリオは相当な量の撮り直しを要求することとなったが、ルークもスタッフも楽しそうだ。
 ティーダ達は役作りを見直す為、各国各地のメディアアーカイブズを片っ端からひっくり返すことになった。
「アデルって魔女は第二次? 三次?」
「魔女イデアが出てきた辺りからが第三次大戦だ。アデルは基本第二次」
 データソースはガルバディアの新聞やティンバーTVの録画、バラム・ガーデンのサイトに載っている魔女のコラム、と枚挙に暇がない。ドールの国営放送のデータは本当に役に立った。魔女の処遇に関する国家首脳会談、通称「ドール会談」の記録映像は、魔女の騎士たるスコール自身の言葉が記録されているからだ。皆は彼と彼を支える恋人の痛々しさに涙ぐんだ。
 その当の本人も、求められれば答えてくれた。
 両親のこと。義理の姉のこと。育ての親のこと。
 ペンダントやリボルバーについているモンスター(『ライオン』というらしい)の由来。名前をつけているのだと聞いたバッツとジタンは大笑いしていた。
「もらった当時は10歳だったんだから仕方ないだろ」
 そういう彼は、ペンダントを大層大事にしているらしい。聞けば生き別れの父親がくれた聖誕祭の贈り物だったとか。それは大事にするはずだ。
 勿論リノアも、懇切丁寧に答えてくれた。立場上答えて良いのやら判別がつかないことは、セルフィが口を挟んだ。時にはアーヴァインも補足したし、スコールなど言うに及ばす。時にはバラム・ガーデンのSeeDや候補生達も話をしてくれた。
 バラム・ガーデンで、2人はとても大事にされていることを嫌というほど思い知る。それと同時に、その外では彼らは手酷い評価を受けていることも。
「でもわたしには、皆がいるから」
 リノアはそう言って朗らかに笑う。


 数日後、恐れていた事が発生した。

魔女の騎士は未来の夢を見るか?

Act.8 コード・クリムゾン


「おっはよー……お?」
 元気いっぱいでバンを降りたティーダは、SeeD達がざわついていることに気が付いた。ルーネスと共にチョコボを駆って並走していたバッツが、手庇を作って伸び上がる。
「何か起きたんかね〜?」
 前に乗せていたルーネスを慎重に抱き降ろし、バッツはチョコボを走らせようとする。だがチョコボはいやいやと首を振って尻込みした。
「えぇっ、どうしたんだよボコ〜?」
 情けない声を上げるバッツ。彼は慌てて降りると、擦り寄せられる頭を撫で摩った。
「ぼく、行ってくる!」
「あっ、こらルーネスっ」
 子供らしい身軽さで駆け出したルーネスをフィリオンが追う。心配そうにボコを見たティナも、バッツが大丈夫だから、と伝えると2人の後を追った。
「ユウナ」
「うん」
 ティーダはユウナと頷き合い、足早に彼らを追った。そのすぐ後ろに、2人を護るようにクラウドとセシルがつく。
「あぁっ!」
 ユウナが悲鳴を上げた。撮影隊のベーステントが壊れている。
「な、何が起こったんスかこれ!?」
「ティーダ」
 テントの端をめくって検分していたスコールが顔を上げた。
「おはよう」
「おはよう……じゃなくて! この状態何!?」
 ティーダが指し示したのは、尽く倒れたテントの群れ。スコールは屈んだまま、そちらを見遣る。
「大変な状態だ」
「うん、だよな。じゃなくて!」
「本当に大変な状態だ。今、斥候やってる」
「……斥候?」
 いっそのんびりとさえ見えるスコールに、ティーダは首を傾げる。
 そこに、犬の遠吠えらしきものが割り込んできた。スコールは立ち上がる。
「お帰り、アンジェロ」
 軽やかに駆けてきたアンジェロは、褒めてくれとばかりにスコールの周囲を跳ね回った。スコールは頭や喉を撫で回して労う。
「スコール、やっぱりっ……」
 アンジェロを追って駆けてきたリノアは、何かを言いかけて口許を押さえた。スコールは招き寄せて指先を振る。リノアは手話と指文字で報告した。健常者であるティーダには流石にそれは読めない。しかし2人とその他リノアが率いていただろうSeeD達の顔はひどく硬く、何か大事が発生した様子なのはよくわかった。
 スコールは暫し考え込む様子を見せた。
「……ディレクターさん、ここで撮るシーンって後いくつ残ってますか?」
「はぇ?」
 間抜けな返事を返してしまったディレクターは、慌てて行程表をめくる。ページは書き込み訂正がひどく、もう真っ黒だ。
「えぇっと、後ここで撮るのは……ここと、ここと、えー……リテイクを考えると3日かな。でなくてもせめて後2日欲しいなぁ」
「……2日も保つか……?」
 どこか暢気なディレクターに対し、スコールは渋い顔でアーヴァインを仰ぎ見る。アーヴァインは頭を振った。
「無理だね、SeeDと護衛官オンリーならともかく」
「同感〜。あたし達だけじゃなくて候補生いるからね」
 セルフィが諸手を上げる。
「だよなぁ……」
 スコールは溜息をついた。
「とりあえず、壊れたテント片付けてくれるか。ついでにダメージレポート」
「はいっ」
 近場にいた候補生に指示を出し、スコールは立ち上がる。
「ディープシー、各員レポートくれ。カーマインは戻った? 報告アーヴァインに上げといて。ルージュ、シアン、それとセイバー何人かで哨戒頼む。混成でアタッカー1にセイバー2、無理にバトルしないこと。セイバーからの人員はそっちに任せる」
「了解」
「漏れがないように気を付けて。リノア、シェイラ、魔導石のストック再確認よろしく」
「はいっ」
「じゃあ皆よろしく。せぇの!」
 パァンッ! 指示を受けた者もそうでない者も、皆揃えて手を叩く。ばらばらと人員が散っていき、スコールは漸くティーダ達に向き直った。
「大変、まずい状況です」
「いやまずい状況ってのはわかってるよ先刻から!」
 何が起こってんのかさっぱりわからないけどね!? と食ってかかるティーダを押し退け、スコールはルークの目前へ立つ。
「恐らく、この数時間から一両日中にはモンスターの大群が雪崩込んでくるかと思います」
 ざわっ、と空気がさざめく。
「そんなに余裕ないんですか?」
「ないですね。恐らく、目を付けられたのは結界装置が破壊されたと思しき本日未明のことでしょう。結界装置単体での効果半径はそんなに大きくないんで、ひとつ壊されただけでも相互干渉がなくなってしまうんです。だから、ひとつ2つ壊されただけで、中にこれだけの安全な空間がある、ってことが向こうにもばれてしまった。しかも栄養たっぷり水気たっぷりの人間の匂いがする。これは来ますよ」
 何が、とは、誰も訊けなかった。あっけらかんとそれを口にしたスコールの様子もなかなか恐ろしい。
 流石の楽観主義者ルーク・トラッドも、暫し思案投首していた。手にはディレクターから借りた行程表が握られている。あーでもない、こーでもない、と表を捏ねくり回す。
「……わかりました。今日で撮影は終了させます」
「え、でもカントク。ええんですか?」
「でもも何もあらへんわ、命有っての物種やし。それにお前、人死にが出た映画なんぞに誰が来んねんな、ホラー映画ちゃうぞこれ。足りん部分はブルースクリーンと素材で何とかしよ。背景素材はしこたま撮ったし、バトルの部分は大分無理言(ゆ)うたんやし……ある意味潮時や」
 ディレクターは不満げにがりがりと頭を掻き回していたが、総監督であるルークには従わざるを得ない。
「わかりました……」
 がっくりと肩を落としたディレクターの背中は、とてもじゃないが見ていられなかった。

 シナリオの大部分は撮影が終わっていたのが幸いだった。後は町のシーンに置き換えたりだとかCGでやれば何とかなる、というか何とかする、とルークは言う。そう言うのならば、ティーダ達に出来るのは監督を信じることだけだ。
「うぉ、支柱蹴っちゃうの!?」
「便利なんですよこれ〜。こっち方向にだけ曲がるんです。だからこう、どかーん、と」
 SeeD達は候補生達と協力し、てきぱきとテント類を解体していく。無駄口が多いが、スコール達監督者は特に注意はしない。彼らはむしろ、これからどうするべきなのかに気を向けていた。代わりに撤退準備の指揮を採っていたのは、リノア達セイバー部隊と教員SeeDだ。
 彼らは全員、戦闘服――というと何か語弊が生まれそうだが、要するに任務の際着用するボディタイツのような黒いスウェットスーツと簡易アーマーだ――を纏っている。
「あれ着ないの? あのカッコイイ服。えーと、SeeD服? っつの?」
 バッツが首を傾げると、クレアはライフルの具合を見ながら苦笑を返した。
「あー、あれはですね……正直なところ、私達にとってはあれ、典礼用スーツみたいな感じなんですよね。ぶっちゃけますと機動性に欠けるとゆー……」
「マジで? じゃあ普段着ないんだ?」
「着ないですねー。普段は皆ばらっばらですよ、仕事の時は。普通、任務って3人1チームで、多くても2チームくらいで行くんですね。だから基本私服で。でも今回は2校合同の演習だし余所の人いるしで、だからSeeDと護衛官は大作戦時用のボディスーツ着るようにって。ぱっと見でバトル要員ってわかるから」
「あぁ、なるほど」
「あれ? ということは候補生くん達は出ないのかい?」
「はい、多分コードは『クリムゾン』になるでしょうし。『ネイビー』かもしれないけど」
 クレアはどっちかな、と首を傾げる。セシルがどういう違いがあるのかと問うと、クレアはどちらも撤退作戦のコードだと教えた。どう違うのかは教えてもらえなかったがそれは仕方ない、とセシルは思う。クレアは失敗したと舌を出していたから、本当はカラーコードも口にしてはいけなかったのだろう。
 クラウドが豪快にミニバスの上から飛び降りてきた。ティーダが何でクラウドがと訝るが、何のことはないクラウドの本業はこちらだ。
「荷物、積み上がったぞ!」
 落下物を危惧して離れていた一同に向かい、クラウドは声を張り上げた。
「はーい! さ、皆さんバスに乗ってくださーい!」
 呼応するクレアの一声にスタッフ達は思い思いに返事をする。少し離れたところでも状況は同様らしく、紺色の制服がぞろぞろと数台の大型車に吸い込まれていた。
 その時。
「わあぁあぁっ!」
 ガルバディア隊の方から叫び声が上がった。
「何だ!?」
 色めき立つ演者達。ライトは往年の癖で身構え腰に手をやる。だがそこに武器は無く、ライトは忌ま忌ましげに舌打ちする。
「な、な……」
 ルーネスが指を指したのは、いつか見た大きな鳥だった。それが車両の屋根を横ざまに蹴りつけ転がし、中の御馳走を引きずり出そうとしている。
 それだけではない。
 蝙蝠のような羽根の生えた紫色の子供が、けたけた笑って候補生に魔法をけしかける。風に巻かれてつんのめった候補生も、しかし負けてはいない。槍で突き剣を振り回し、叩き落としてSeeDの方へ蹴り転がす。それが出来たら一目散に逃げる。後は司令官から命を下されたSeeD達が叩きのめす。候補生達はあくまでも学生であるからして、無茶をさせてはもらえないのだ。
 転びかかった車両の屋根を掠め、アーヴァインの放つ紅蓮の火球が飛ぶ。命中した怪鳥は悍ましい悲鳴と共に燃えて落ちる。セルフィは恋人の仕事に喝采を上げながら、飛び掛かってきた馬鹿でかい羽虫を殴り落としていた。
 リノアは美しい翼を象った円盤を腕に嵌め、スコールの隣で魔法カートリッジを操っていた。きゃあきゃあ言っている彼女の動きはどうにも悪く見える。
 ごう、と真っ赤なドラゴンが吠えた。
 茫然とユウナは立ち尽くしていた。クレアがライフルのセーフティーを外し、皆を庇って前へ出る。
「行ってください! 早く!!」
 怯えてすくんだルーネスを掻っ攫い、ライトはバスまで駆ける。後ろは見なかったが、フィリオンが「ティナ、ごめん!」と声を張り上げ、それと前後して小さな悲鳴が耳に届いていたから心配はしていない。セシルは自身の隣を走っているし、小柄なジタンはバッツのチョコボに掬い上げられていた。
「ティーダ!?」
 ジタンが一瞬振り向き、ティーダを呼ぶ。ティーダが弾かれたように肩を聳やかせユウナの手を掴んだ。
「……っ、ユウナ、行こう!」
 しかしユウナはとうとう振り切れてしまったらしく、くたっと座り込んでしまった。手を引っ張っても動かない。
「ユウナ!」
 あぁ、どうしよう!? パニックになった頭は何をしたら良いのか指示してくれない。ティーダはしかしユウナを1人にする選択肢はない。ユウナの肩を抱いたティーダは、彼女を立ち上がらせようとする。
「シャアァアッ!」
 動けないユウナを良い獲物と判じたのか、黄金色の獣が唐突に立ち上がった。紫色のヒゲらしきものがたなびく。碧色の眼光がティーダを射抜く。
「あ、わ、うわ」
 腰が抜けてしまったティーダは、ユウナを抱き締めてもがくしかない。あぁせめてユウナだけでも――ティーダはユウナの頭を胸に抱き、「その時」に備える。
 獣が飛び上がった。
 その爪牙がティーダに届く、その瞬間。
「ガァッ!」
「ギャン!」
 何かがティーダとユウナの頭上を横切った。と思ったら、それは獣と共に地に落ちた。
「え……?」
 尻尾のないそれは唸り、吠え立てて獣を狩らんとしつこく喉笛を狙う。獣とて負けてはいない。体格的に四肢は獣の方が長く、分はそちらにありそうにも見える。
「Angelo!」
 鋭く高い声が響いた。
 アンジェロはぴくりと耳を震わせると、獣の腹を蹴り付け退却する。バランスを崩した獣は、しかし尚も負けじとアンジェロに飛び掛かり――。
 首が、飛んだ。
「――――っ!」
 どさり、と横ざまに臥した獣を前に、ユウナが声にならない悲鳴を上げたのがわかった。ティーダだって泣き叫びたい。それをしなかったのは、恋人を目の前にした男としてのプライドだ。
「大丈夫ですか!」
 リノアが駆け込んできた。その腕に装着された円盤が、僅かな血に濡れている。彼女は逆の手に握られていた杭状の物をがつんと地面に突き立て、より深く刺さるように上から踏み付けた。途端、碧色の光が溢れる。ばちんっ! と弾かれる羽虫で結界装置の作動を確認し、リノアは息をついた。彼女もまた、クレアや他のSeeD達と同じように、黒いスウェットスーツとアーマー姿だ。
 彼女の足元に擦り寄るアンジェロ。リノアはその首を叩いて労う。
「Good girl, Angelo」
 きゅんきゅんと鼻を鳴らしているのを見るに、アンジェロも相当恐かったのだろう。鼻を擦りつけてくるアンジェロをあやしながら、リノアは2人に手を差し延べる。
「怪我は?」
「いや……俺は……」
「ユウナさんも?」
 ユウナはこくこくと何度か頷いた。リノアはにっこり微笑むと、ざっと周囲を見回す。
「クレア、ここ良い?」
「はいっ、任せてください先輩!」
 クレアは元気良く応じ、敬礼した。リノアは頷くと、アンジェロを抱き締めて背を叩く。
「アンジェロもお願いね」
 彼女が力強く鳴いたところで、リノアはその鼻先に手を当て、「Stay」と命じた。アンジェロはさっと伏せる。
 リノアはティーダとユウナの傍らに膝をつき、申し訳なさそうに肩を竦めてみせた。
「ごめんなさい、ちょーっと大変な状況なんですよね……逃げ道確保どころか、囲まれちゃって。今、エスタ軍の歩兵隊と連絡取れましたんで、後もう少しだけ我慢してもらえますか」
「……ということは、『クリムゾン』ですか、先輩」
「そうそう。隊長さん全速前進でって言ってくださったから、もう30分もないと思う。だから、その間」
「わかりました!」
 リノアはクレアの肩を叩き、魔法カートリッジを握り直して再び立ち上がる。
「な、なぁ」
 突然、ティーダがリノアを呼び止めた。リノアは僅かに振り返る。
「はい?」
 呼び止めたは良いものの、ティーダは何を言いたくて呼び止めたのか自分でもわからなかった。リノアは首を傾げる。
「その……、気を付けて!」
 リノアはきょとんと目を瞬かせ、次いでにっこりと微笑んだ。そして彼女は自身に何かの魔法をかけ、素晴しい速さで戦場へ駆けていく。
「……死なないで」
 ユウナが震えながらも彼女の背に向かって呟く。届かないとわかっていても言いたくなるその気持ちが、ティーダにも痛いくらい理解できた。

 傷だらけのルブルムドラゴンが、どう、と倒れた。
 そのまま起き上がってこないことを確認し、スコールは太く息を吐き出す。そして、やや紫がかった鮮血が頬を流れるのを、鬱陶しげに手の甲で拭った。
「ごめんな、皆。ごめん。もう少しだから、もう少し!」
 憔悴の色濃いスコールの謝罪を、SeeD達は口々に否定する。気にするなといっても気にするのが彼だ、とりあえずおざなりにでも応じておく。
ピジョンブラッド(ガルバディア隊諜報班)、第五大隊の予定到着時間は?」
「最新情報では約25分後。指揮官はオライリー中佐、ですね」
「っ、どこで引っ掛かってるんですかカーネル・オライリー!」
 振り向き様の泣きのひと吠え。彼の愛剣ライオンハートの露と化したのは、運の無いガルキマセラだった。
「お見事!」
「うるさいマート、仕事しろ!」
 囃し立てる男子にスコールは歯を剥き出す。皆がそれに笑った。
 周囲は実は、笑っていて良いような状況ではない。一言で表すならば、正に「凄惨」。その中で笑う彼らは、異常者以外の何者でもない。そうしていなければ泣きそうな程の恐怖と戦っていることなど、部外者は知る由も無い。
「スコール、お待たせ!」
 ヘイストの紅い光を引き連れて、リノアがスコールの傍らに滑り込んだ。同時に魔法カートリッジを駆動させる。
「ドロー、メテオ!」
 紅蓮の焔が次々とモンスターの群れを叩き、荒野を焼き尽くさんばかりに照らす。リノアはち、と言いながら歯を剥き出した。彼女は所謂「舌打ち」が上手く出来ないのだ。それが妙な笑いを誘う。
「残った、ルブルムドラゴン!」
「またかよ!」
 誰かが悲鳴じみた叫びを上げた。先刻漸く1体倒したところなのに! という嘆きは、皆の共通する心境だ。
「オッケーわかった、あたしがやる!」
 そう言うと、セルフィは魔法カートリッジに良く似た銀色の機材――スロットカートリッジを取り出した。
「出てこい出てこい〜……っし、見つけた! 皆、退いて〜っ!」
 スロットを回転させ目的のものを見つけたセルフィが声を張った。SeeD達は慌ててセルフィの正面から退避する。射線が大きく開いた。
「いけぇっ!」
 スロットが輝く。
 辺りに冷気が集中する。と思えば、ガシャアン! という鋭い音と共に、ルブルムドラゴンを巻き込んで周囲が凍り付いた。それが、2度、3度と続けば、さしもの火竜も立ってはいられなかった。どう、と再び地を揺らす。歓声が上がる。
 そこに、影が射した。
 何だろうと皆が振り返る。
「……え、」
 ずしん、ずしん、ずしん。そんな冗談のような地響きと共に現れた影の主は――。
「…………鉄巨人?」
「うそだろ、でかすぎる……!」
 呆然と呟くSeeD。
 鉄巨人はとてつもない大きさの剣をぶら下げ、窪地であるキャンプへ近付いてくる。途中、崖に手をかけ……砂で出来た造形物であったかのようにいとも容易く崩してしまった。その足元では、逃げ遅れたグラナトゥムがバキッという音と共に潰されてしまう。
「う、ぁ」
 鉄巨人を初めて見たらしい比較的経験の浅いSeeDが、怯えた様子で後退る。その肩を、アーヴァインが後方へ押しやった。
「はいはい、足が竦んじゃったなら下がって下がって〜。後は僕らがやるよ」
 ねぇスコール? そうアーヴァインは不敵に微笑う。スコールは彼の意図を察し、淡く口許に笑みを掃いた。
「……そうだな」
 スコールは耳にかけたインカムを起動し、声を張り上げた。
「各員にカラーコードの変更を伝達。現時点をもってクリムゾン(外部介入前提の前線放棄)を破棄、これよりネイビー(殲滅撤退戦、但し生命の安全確保最優先のためバトルは最小限)に移行。SeeDランク20以上、及び護衛官クラスB以上とセイバー部隊はパーティを組んで遂行の主動を頼む。割合はアタッカー2、セイバー1。内、3班は撮影隊の護衛を。関係者私物のチョコボがいるから細心の注意を払ってくれ。で、訓練生に戦わせるな、余計な犠牲を出すな、とにかく西に向かって突っ走れ何があっても振り返るな!」
「大平原を西向きに進んで、大塩湖方面に向かうんだよ〜。間違っても森や山の方に行かないように気を付けて! さぁ、行動開始!」
 打ち鳴らす手と共に放たれたその一言に、SeeD達は我先にと撤退する。後に残るのは、アーヴァイン、セルフィ、リノア、そしてスコールの4人だけ。
「さて、SeeDランクSの諸君」
 ランクSというSeeDは、本来は存在しないカテゴリーである。だがスコール率いる攻撃隊A班、ひいてはそれを構築するSeeD達は、同じランクASeeDからも一目置かれる存在だ。そんな彼らに敬意を示し、彼らは「ランクS」と呼ばれている。「Sは『スコールチーム』のSだ」という幾らかの揶揄も含めて。
 ガーディアン・リングが、りぃん、と打ち鳴らされる。
 アーヴァインとセルフィ、スコールとリノア、珍しい変則パーティだ。だがたった4人で時間を稼ぐなら、近距離と遠距離がそれぞれ組むのが最も効率良いだろう。
「行くぞ!」
 駆け出す彼らに、言葉なんて、要らない。

 突如乗り込んできたSeeD達にハンドルを奪われて暫し。ティーダ達はエスタシティのエッジ付近に展開していたエスタ陸軍第3歩兵大隊に保護された。
 前衛だったSeeDは勿論、後続の候補生や護衛官達も次々に到着している。殿やその近辺を走行していたらしき車両はどこかしら壊れていた。中にはどてっ腹を鈎爪で引き破られたと思しきものもあり、よくもまぁあれで自立走行出来たものだとクラウドが呆れていた。
「スコールさん達、まだかなぁ……」
 風除けのマントを掻き合わせ、ルーネスがぽつりと呟く。少なくとも、見える限りに彼ら4人の姿はない。少年を護るように、アンジェロは傍に臥せて目を閉じていた。
「アンジェロも寂しいよね」
 ルーネスの問いに、犬であるアンジェロは返す言葉がない。彼女はぴるる、と耳を震わせただけだ。
 そのまま、暫し。
 新兵達にやたら可愛がられていたバッツの愛チョコボが、ふと顔を上げた。それとほぼ同時、アンジェロがそれはもう機敏な動きで立ち上がり、駆け出す。
「アンジェロっ!?」
 驚くルーネスを見向きもせず、アンジェロは砂漠をひた走る。
「お、何か来た!」
 バスの上で伸び上がるフィリオンが、砂埃でけぶる地平線を指差した。皆が釣られてそちらへ視線を寄越す。
 エスタ軍制式のジープが見る間に大きくなる。興奮して跳ね回るアンジェロは暫し並走し、見かねたらしき運転手に迎え入れられていた。
「やっほ〜ぃ、み〜んな〜♪」
 助手席の後ろで立ち上がって両手を振り回していたのはセルフィ・ティルミットだ。苦笑いしているアーヴァイン・キニアスが、彼女の腰ベルトを横からがっちり捕まえている。この状態では見えないが、恐らくスコール達はジープの荷台に乗っているに違いない。
 案の定、スコールは難しい顔をして畳んだ幌の上に座っていた。リノアが処置なし、と苦笑いで肩を竦める。
「はい、ご到着。もうそろそろ機嫌直してくださいよ」
「……乗せてくださってありがとうございました、オライリー中佐」
 嫌々ながらも礼儀は忘れず。車を降り、深々と頭を下げて礼を言うスコールに、オライリーは鷹揚に頭を下げて返した。
「いーえ、長旅お疲れ様でした、『レウァール少尉』」
 ひくり、とスコールの頬が引きつる。 「だ・か・ら、それをやめてくださいって何度も何度もお願いしたじゃないですか。俺は今日はSeeDであって……」
「私を黙らせたかったらもっと上の階級まで来れば良いんです。そうしたら言うこと聞いてあげますよ、レウァールの坊ちゃま」
「〜〜〜〜っ」
 ぐるるる、と喉の奥で唸るスコール。リノアが宥めるように肩を叩き、そのまま後ろに押して下がらせた。その様子にセルフィはくくく、と笑い、アーヴァインは頭を掻き掻き帽子を取る。
「改めまして、今回はありがとうございました」
「いーえ、この程度。では、仕事がありますので」
 アディオス! と軽く敬礼をし、オライリー中佐はジープを発進させた。来たとき同様瞬く間に地平線へ向かって小さくなるその車両に向かって、スコールはべぇっと舌を出す。呆れた顔で肩を殴るセルフィ。
「たかだか子供扱いされただけやろ、ぶっさいくな顔しな」
「違うっ、俺は名前の呼び方に怒ってんの!」
 歯を剥き出して怒りを顕にする様子は、どうにも幼い。子供扱いさもありなん。
 そんなこともお構いなしに、アンジェロは彼等の足元を跳ね回る。リノアがあやしている内に、スコールはずかずかとティーダ達の方へと向かってきた。
「皆さん怪我は!?」
 その剣幕に、首を横に振る以外の何が出来たのか――いや、勿論ティーダ達に怪我はなかったし、怪我らしい怪我は、候補生達はおろかSeeD達にもなかった。その代わり、車両の被害は甚大だ。喜ぶべきか、嘆くべきか。
 とりあえず人的被害はほぼないと確信したスコールは、候補生達を集めてクローズミーティングを始めた。やれ最後のカレントレポートはファストレポート形式で出せだの、その形式は教員から配布されるのでそれを使えとか、今日の残りは1800(ヒトハチマルマル)まで自由時間だから、変な所に行って羽目外すんじゃないぞまで、些か早口で指示を出す。
 八つ当たり気味な荒れた口振りに、端から見ているティーダ達は吹き出しそうになるのを必死で抑えていた。

 敢えてもう一度言おう――子供扱い、さもありなん。

「何笑ってんだそこぉ!!」
 振り返って爆発したスコールに抵抗しようにも、彼らはもう駄目だった。
 ティーダを始め、ユウナも、バッツも、フィリオンも、セシルも、ルーネスも、ジタンも、ティナも、果てはクラウドからライトまで、砂漠の辺(ほとり)に大きな笑い声を響かせていた。




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