‡CATION!!‡


この話は、多少性的な描写を含んでいます。
かくれがに来て下さっている方々の中にスコール達と同じ学生さんがいるだろうことに配慮はしているつもりではありますが、情景にやや下品な箇所があることは否めません。
ですのでこの作品はR-15とさせていただきます。
性的な含みがある話に嫌悪感を抱かれる方や義務教育中の方の閲覧はお勧めしませんので、ここから先のスクロールは自己責任でお願いいたします。

……内容自身は告白話なんですけどね(苦笑)





















 ばかだ、と思う。
 何でこんなに、抑えが利かないんだろう、と思う。
「んっ……は、ぁっ」
 声が零れる。それを抑えたくて、少年は枕に枕に突っ伏した。
 いやだいやだ、みられたくない。
「…………っ」
 絶頂の予感に歯を食いしばる。力みすぎた身体がぶるぶる震える。
「…………は」
 漸く解放された心は、ぐったりと疲れていた。ぱたり、とシーツに身体が堕ちる。
(大丈夫かな……俺、大丈夫かな)
 次に彼女を見たときに、自分は果たして堪えられるのか?

月光

〜はじまりの夜〜


 スコールは現在、ドクター・カドワキから日に2時間程のリハビリ指導を受けている。先の騒動で傷を負い、ついこの間床を片付けたような候補生やSeeDは、意外に多いのだ。スコールも彼らに混ざり、ストレッチや傷病兵の為に開発されたというピラティスに精を出していた。
「はい、今日はおしまい。大分動くようになったね。良かった良かった」
 ドクター・カドワキはひとりひとりに声をかけ、仕上げの診察を施す。
「ありがとうございました」
 スコールがぺこりと頭を下げると、カドワキは大きく頷いた。
「あんたが一番心配だったんだけどねぇ、ここまで来たらもう大丈夫だ。後はじっくり体力戻しな」
「はい」
 スコールはもう一度頭を下げると、松葉杖を突き突きゆっくりと廊下を歩いて行った。
 部屋に帰り着くと、スコールはほっとを息をついた。
 実を言うと、疲れていた。SeeDだ司令官だと言っても、疲れるものは疲れるのだ。まして病み上がり怪我上がり。昼は司令室夜はトレーニングルームという生活で痛感した――本当に、情けない程体力がなくなっている。
 杖を放り出し、リビングスペースに敷いたラグマットにべたりと座り込む。
「あー……」
 背もたれになるようなものは何もなくて、スコールはころりと仰向けに転がった。
 その時、軽い排気音と共にドアが開いた。
「やほ、スコール」
 リノアだ。スコールは慌てて身を起こす。リノアはスコールを制するように両手をひらめかせる。
「良いの良いの、ごめんね。リラックスタイムだった?」
「いや……さっき、トレーニングから戻ってきて」
「あ、だからさっき来た時部屋にいなかったんだ。ダメだよ〜、お部屋の鍵ちゃんとかけないと」
 リノアはわざとらしい怒りのポーズをしてみせ、ふふっと笑った。そこに妙な色気を感じて、スコールは気まずげに視線を外す。それを拗ねた様子と捉えたリノアは、ますます笑ってスコールの隣へ座り込んだ。
「スコール、身体の具合、どう?」
 リノアは首を傾げる。
「……大分、良い」
「良かった」
 ほっと微笑うリノアは、本当に愛らしくスコールの目に映る。
 胸が、軋むかの如く高鳴った。首筋から背中がぞくぞくする。
 つやつやした唇から目が離せない。
 ――キス、したい。
 あの温かくて柔らかな感触を、もう一度感じたい。
 だがお互いに常ならぬ精神状態だったあの時と今は違う。気持ちが高揚していて、ある程度までは「そんな気分だった」で済まされる、そんな状態ではない。
 スコールは機械的に頷きながら、リノアを見つめていた。
 さらさらと肩を流れる漆黒の髪。
 魅力的に光る黒い双眸。
 白くまろやかな頬。
 好い声で絶え間無く囀る薔薇色の唇。
 華奢でたおやかな肩。
 緩やかに張り出した胸元。
 甘い香り。
(……ヤバい……)
 頭がくらくらした。
「スコール……どうしたの?」
 いつしか相槌も打たなくなっていたスコールを、リノアが心配そうに覗き込んだ。
 その指先が、スコールの額へ伸びる。
(あ)
 やめてやめて、触れないで。触れられてしまっ、た、ら――!
「きゃ……っ」
 スコールは無意識にその手を掴み、ラグマットへ華奢な身体を引き倒した。
「ス……!」
 彼女が、何か言おうとしていた。だがスコールはお構いなしに、リノアの口を塞ぐ。
 リノアは目を見開いたまま息を詰めた。スコールは口付けを続ける。唇で唇を食むように、ひたむきに押し付けていた。
 ――苦しい。
 リノアは驚きのあまり息を止めたことを少し後悔した。だが今息をつくと、スコールをがっかりさせてしまいそうな――酸欠で頭がぼーっとして、リノアは自分の思考がおかしいことに気付かない。
「――っはぁっ!」
 同じく息を詰めていたらしいスコールが、頭を跳ね上げ大きく息をした。
「…………あ」
 スコールは呻いた。その顔色が一瞬で蒼褪める。
 リノアは胸を大きく上下させて必死で呼吸していた。スコールを見上げる瞳は生理的な涙で潤み、唇がどちらともしれないもので濡れている。まじまじと見つめるスコールに微笑むように、その双眸が僅か細まった。 魅了されたスコールは、ごくりと喉を鳴らす。
 ――引き裂いて、食い尽くしてしまいたい――!
 原初の衝動がスコールの内を駆け巡った。下腹へ血が集まる感触に、スコールはばっと身を翻してリノアから離れる。
「スコール……?」
 弱々しい声が、スコールの背を追う。
「出てけ! 男の部屋に気安く来るな!!」
 スコールはそっぽを向いたまま叫んだ。それきり、黙り込む。
 リノアは暫くの間じっとスコールを見つめた。丸められた背中には拒絶の意思しかない。そっと指先を伸ばすが、触れられない。
(スコール、どうして? わたし達は……)
 きゅっと指先を丸め、リノアは静かに立ち上がった。
「夜は冷えるから、身体、あったかくしてね……?」
 リノアはそれだけ伝えると、そそくさと部屋を後にした。

 しょんぼりと廊下を歩くリノアは、キスティスとセルフィに捕獲された。
「リノア、どうしたの〜?」
 キスティスの部屋で温かな紅茶を飲みながら、セルフィはリノアへ問い掛ける。
「……スコール?」
 キスティスが探りを入れると、リノアは力無く頷いた。
「……勘違い、だったのかな。わたし、スコールに好かれてるんだって、思ってたんだけどな……」
 紅茶に口も付けずとつとつと呟くリノア。
 2人は顔を見合わせる。こんなにも弱々しい彼女を見たのは、初めてだった。
「ぎゅってしてくれし、キスもしたし、……それ以上、だって……。あは、ははは、そういや、皆変な状況でしかやってないや。雰囲気に流されて、わたしがして欲しいって思ってたこと、やってくれてただけなのかな……。やっ、やっぱ、勘違いだったっぽいね。もぅ、わたしってば自信過じょ……」
「リノア」
 痛ましくて見ていられなくなったキスティスが、厳しい声を出した。
「リノア、貴方はそうやって彼のやってきたことを全て否定するつもり?」
「キスティス……」
「知らないでしょう、私の『弟』が、貴女の為にどれだけ心を砕いたか? それなのに彼の気持ちを全て否定するなんて、赦さないわよ」
「…………」
「リノア……」
 セルフィの手が、俯くリノアの腕に触れる。
「あのね、リノア。リノアが初めて『継承』を受けた時、昏睡状態になったでしょ? あの時スコールね、リノアを助けてもらおうとしてエルお姉ちゃんに会いに行ってるの。リノアを背負って、F.H.から歩いてエスタに行ってるんだ」
「……本当?」
 漸く目線を上げたリノアに、2人は大きく頷く。
「エルお姉ちゃんがルナサイドベースに居るって聞いて、宇宙にまで行ったのよ。お姉ちゃんに会えばリノアは助かる、なんて、誰も保証していないのに」
 リノアの目が潤んだ。嗚咽を抑えるように、リノアは口許を押さえる。
「じゃ、じゃあもしかして、『あの時』スコールの声が聞こえた、気がしたのは……!」
「ん、きっと気のせいじゃないよ。お姉ちゃんは『未来に一番近い過去』に接続するって言ったもん。戻ってきたスコール、お姉ちゃんに『ありがとう』って言ったもん。だから、きっと」
 セルフィの言葉に、リノアはぽろ、と涙を零した。真っ白だった頬は赤みを帯び、光の筋が美しく彩りを添える。
「……わたし、まだチャンスあるかな?」
「あるわよ、勿論! というか、リノア以外にチャンスを手にした人はいないんだからっ」
 キスティスは思い切りリノアの背を叩く。リノアが痛い、と顔をしかめると、キスティスは軽い調子で謝った。一瞬間を置き、3人娘は笑い合う。
 ひとしきり和やかに笑い声を響かせて、リノアはすっきりした顔で紅茶を飲み干した。
「決めた。わたし、もう一度スコールのところ行ってくる!」「そうそう、その意気〜! っあ、そうやちょっと待ってて!」
 セルフィは唐突に立ち上がり、ばたばたと部屋を出る。ものの数分で戻ってきた彼女は、意外にもシックな財布を持っていた。
「リノア、リノア、これお餞別。男は頭回らんからな、女の子が自衛せなあかんで」
 ぴろっと取り出したるは、ピンク色のパッケージの綴り。それを見たキスティスは一瞬で真っ赤になった。
「ちょ、セルフィ、貴女……」
「あ、一応言っとくけどまだ経験ないよ! これは去年、トラビアで候補生クラスに入った時に保体の授業で配られたの」
「そ、そう……びっくりした……」
 キスティスはくたっと頭を落とした。純粋培養されたお嬢様には、些か刺激が強すぎた様子だ。因みにそれは、キスティスの学生手帳の裏にも、他の女子のポーチや財布にも勿論入っている。ガーデンでは、もしもの際にはせめてもの自衛手段として使用するようにと配布されているのだ。
 受け取ったリノアは恥ずかしそうに微笑う。そしてすっくと立ち上がった。
「じゃあ、行ってくるね」
「いってらっしゃ〜い! お土産話待ってるよん♪」
 セルフィは諸手を上げてリノアを見送る。キスティスは片手を振って……ふと、何かを思い立ち、デスクに置かれていたメモリーカードをリノアへ差し出した。
「リノア、これ」
「これは?」
「PDAに入っていた、貴女のビデオデータ。その……ごめんなさいね? あれ、バトル計兼情報収集ツールとして貸与されていて、本部に返さないといけないのね。だから、戦闘データ以外でプライベートなものを取り除けていたんだけど……本当にごめんなさい。セルフィがプライベートな写真を撮ってたのは覚えていたから、ビデオデータもてっきり彼女のだと思って……中身、見ちゃった」
「へ……?」
 リノアの思考がフリーズする。
「あれ、見、たの……?」
 キスティスはこっくりと頷いた。
「それでね、多分スコール、それ見ていないと思うのよ。ルナティックパンドラに突入する前日に、私がPDAを預かって、そのままになってたから」
「……そっか。そっかぁ……」
 リノアはあはは、と頭を掻く。漸く、スコールが「男の部屋に気安く来るな」と言った意味がわかった。
 何のことはない。自分達はまだ、始まってもいなかったのだ。
「じゃあ、尚更行かないとね。スコールに、わたしの告白、聞いてもらわないと」
「きっと上手くいくわ。いってらっしゃい」
 リノアはメモリーカードを握り締め、意気揚々とキスティスの部屋を出た。

 ようやっとシャワーだけを浴びて、スコールはベッドに倒れ込んだ。
「やっぱり、駄目だなぁ……」
 呻くように呟いて、スコールはブランケットを頭から被る。
 俺は、馬鹿だ。愚か者だ。
 どうして、あの無邪気な少女を汚さなければ気が済まないのだ。本当に浅ましくて、愚かで――汚れている。
 だが、それでも想うことはやめられない。衝動を何とかやり過ごして何食わぬ顔で会うためには、身の内に巣くう熱を無理にでも吐き出し、冷静な己を取り繕うしかない。……もう、遅いが。
 ――ごめん。ごめんなさい。すみません。夢だけにしますから赦してください。
 幾度も胸の内で謝りながら、スコールは擬似的な薄闇に篭る。
 唇を舐める。
 柔らかかった。温かかった。甘かった、気がする。
(リノア……)
 スコールはいつものように俯せになった。そうすると、罪悪感が少しだけ薄れるのだ。枕に突っ伏すとほっとした。何も、見えないから。見なくて済むから。
「……っ、ふ……ぅ」
 明確な感触を伴う記憶は、殊更に彼を煽り立てる。
 少年は、ただひたすらに夢を見る。彼女の愛撫を思い起こし、愚かな夢に身を埋める。大切な少女を抱く夢が、大切な少女に抱かれる夢が、僅かに渇きを癒してくれる。その先に待つのは耐え切れない程の飢餓だとわかっていても、これだけはやめられない――。
 その時、空気が微かに動いた。
 スコールの思考が唐突に現実へ引き戻される。瞬間、彼は枕に仕込まれたナイフを掴み、鞘を払って振り上げた。SeeDになるべく育てられ、厳しい訓練の末に研ぎ澄まされ過ぎた生存本能の故だった。
「…………っ!」
 侵入者は息を呑み、咄嗟に後退った。スコールがその正体に気付き、追い縋ろうとする本能を押さえ込まなければ、切り裂かれていたのは髪の毛数本だけでは済まなかっただろう。勢い余ってナイフをベッドに叩き付けたスコールは、漸くそれを手放してベッドサイドのランプを付けた。淡い暖色の中に、彩度を落とした少女の姿が浮かび上がる。
「……っご、ごめん、なさい……そんなに驚くと思わなくて……あ、の、ど、ドアロック開いてて、声かけたけど、反応なかったし……」
 しどろもどろで言いつのるリノア。スコールは目を眇める。
「……リノア。今、何時だ」
「っえ?」
 思考が追い付かないリノアは、きょとんと目を丸くする。
「今、何時だ」
 スコールがはっきりと口を開いて繰り返すと、リノアは目線で時計を探した。
「も、10時近いかな……?」
「そうだな」
 スコールは放り出したナイフを取り上げ、刃を改める。
「人の部屋に来るような時間じゃないのはわかってるよな?」
「う、ん……」
 もそもそと両手を組み替えるリノアは、枕の下から出て来たナイフの鞘を見るともなしに眺めている。
「じゃあ、何で来た?」
「何で、って……」
 スコールは、ナイフの切っ先をぴしりとリノアへ向けた。濡れ光る刃の向こうに、炎を映したような蒼灰の瞳が厳しい光を宿す。
「お前は俺を信頼してくれてるのかも知れない。だけどなリノア、俺はお前が思う程清廉潔白な人間じゃない。お前、俺が普段何考えてるかなんて知らないだろ。その身体に教え込んでやろうか? そうしたらちょっとはわかるだろ!」
 声を荒らげ立ち上がったスコール。リノアは、殴られるのかと思ってきつく目を閉じた。
 ぐいと腕を取られ、引き倒される。そして――。
「―――……っ」
 唇が、触れた。
 焦点が会わない程に近い距離に、彼の伏せられた睫毛がある。それが、ふるふると小さく震えていた。
 両手は、縋り付くかのようにリノアをベッドへ縫い留めている。押し付けられた身体は重く、熱い。
 自然目を閉じたリノアは、全身でスコールを感じていた。
 熱い。スコールを「男」だと主張するソレが、熱を孕んでリノアの腿に押し付けられている。
(あぁ……)
 どうしよう、とリノアは思った。
 逃げられない、訳ではない。むしろスコールは、彼女が逃げられるように力を加減していた。
 ちゅ……、と濡れた音を立てて離れていくスコール。
「……は……」
 リノアの唇から零れたのは、満足の吐息だった。
(もっと、して)
 目線でリノアは希う。だがスコールは哀しそうに目を細め、リノアの身体を解放した。
「……これに懲りたら、さっさと出ていけ」
「…………」
 スコールはそろりとベッドを降り、放り出していたナイフを拾い上げてサイドテーブルへ置く。やや丸められた背が頼りない。
 リノアの胸に、強烈な怒りが沸き起こった。
「逃げないでよ」
 咄嗟に零れたのは、挑発するような調子だった。
「スコールの気持ちがわからない。キスしてくれたのは何だったの? 抱き締めてくれたのはどうして? 『魔女でも良い』って言ってくれたのは嘘だったの?!」
「っそ、れは……」
 嘘じゃ、ない。
 キスこそ衝動からだが、抱き締めたのは恋情からだ。
 だがスコールはそれを口に出さない。出すことが出来ない。こんなに純粋でこんなに獰猛な感情は初めてで、それをリノアにぶつけてしまった時に彼女が無事でいられるのか保証が出来ないからだ。スコールには、圧倒的にそういう経験が、ない。
 戸惑ったまま硬直した彼の背に、リノアはそっと抱き着いた。スコールの身体がびくりと震える。
 リノアはシャツ越しにスコールの背へ口付けた。
「スコール……わたしだって、あなたが思う程純粋じゃないんだよ」
 リノアの両手が、スコールの腹を探る。
「毎晩、わたしが何考えてたか知らないでしょ……?」
「……っ」
 ねっとりとした手付きで腰を撫で下ろされ、スコールは身を震わせる。
「すっごいいやらしいオンナなんだから、わたし。しかも超が付くぐらいの物凄い勘違いっぷりだし」
「勘、違い……?」
 スコールは首を回そうとする。その時、彼は一際大きく身体をびくつかせた。
「ぅっ……!」
 強烈な、純粋な快感。スコールは砕けそうになった膝を叱咤し、必死で耐えた。
「わたしね、わたし達はもう恋人同士なんだって、すっかり思い込んでたの……こんな、ことまで、させてくれるから」
 リノアの指先が、スコールの急所を撫でていた。先刻まで自ら煽っていた箇所をそんな手付きで撫でられては、たまったものではない。
 ――だが、これこそ彼が望んでいたものだ。
 このまま、抱いてくれないだろうか。彼女の手で解放して、気持ち良く眠らせてくれないだろうか。スコールの胸の内に、そんなあからさまな欲望の火が燈った。
「言いたいことがあるの。聴いて欲しいことが……だから、先に言って? この気持ちが迷惑なら、言わずに出ていくから」
「リノア……」
 泣きそうに震えた声に、スコールは胸を痛めた。
 スコールはリノアの手を取り、やんわりと離させる。リノアが震えるのが背中越しにわかった。スコールはその手を離さないまま、身体を反転させる。そうすると、互い違いになっていた腕が真っ直ぐに繋がった。リノアの怯えた瞳が、目に映る。
 途端に、愛しさが胸に溢れた。
「スコール……」
「…………」
 苦しい。
 スコールは息が詰まるような心持ちで唇を微かに開いた。だが、言葉が出て来ない。そして、気付く。自分もまた、怯えていたのだと。この膨らみすぎた気持ちを拒絶されたら、自分はもう、立ち上がれないと確信しているから――。
 欲望は副次的な物だったのだ。自分が怯えていたからこそ、彼女を神聖視して自分を汚らわしく感じていた。ただ、それだけ。
 スコールはリノアの手を親指で撫でた。すべすべとしたシルクのような手触り。だがスコールは、柔らかいだけでない彼女の手を知っている。その指先は少し硬く、その腕は案外と力強いことを知っている。
「……スコール。これは、わたしの都合の良いように解釈して良いの?」
 スコールは漸く、仄かな笑みを見せた。そして、その白い手をひっくり返すと、掌へそっと唇を寄せた。その動きで、リノアは彼の気持ちを理解する。 リノアはそっと、スコールの胸に手を当てた。
「……あなたが、好きなの。好き、本当に好き、大好きなの……だから、その……わ、わたしの、恋人になってください!」
 スコールは深く頷くと、胸に当てられた手に自身の手を重ねた。
「……喜んで」
 見上げたリノアと、見下ろすスコールの視線が絡み合う。
「……これからよろしく」
「こちらこそ」
 そして2人は、導かれるままに唇を重ね、ひそやかに笑い合うのだった。




End...?