※冒頭が非常に下品です。不愉快になられる方は読まないことをお奨めします。









   ネイルケア(跡部)

「……ちょっと、景吾待って。ちょっと!」
「んだよ……」
 跡部 景吾と 。彼ら2人にとっては珍しいことに、が拒んだ。
「痛いんですけど」
「あ? 今更?」
「爪よ、爪……切ってないでしょ。かき回されるとき痛いったら!」
「かきっ……!」
 滅多に出ないあからさまな言葉に、まだ年端も行かない跡部の顔は一気に赤くなる。
「っ、てめぇオンナだろ!? 言葉遣いに注意しろよ!」
「素で口の悪い景吾に言われたくないわよ。あーもう、ちょっと手洗ってきて。切ったげる」
「ったく……」
 あっさり袖にされて、いやいやながら跡部はベッドを抜けた。最低限のものを身に付けると、のろのろと洗面所に向かう。
「あ、お湯と石鹸で洗ってきなさいね。そのままじゃカタイから」
「あーあー、わかったよ」
 拒んだところで意味がないのは、昔からの付き合いでよく解っている。
 解っているからこそ、跡部は素直に水が湯になるまで待っていた。


「あぁ、戻ってきた」
 そう言う彼女は、既にちゃんと服を身に纏い、何やらさまざまなものをミニテーブルにぶちまけていた。
「……何するつもりだ」
「ネイルケア♪」
 聞いている方が浮き足立ちそうなほど嬉しそうな声で、はそう言った。
「爪を『切る』んじゃなかったのかよ」
「うん、だからこの際いろいろやってやろうと思って」
 そう言うと、は両手で跡部の手を包み込む。
「もう、手を使うアスリートの癖に、全然気にしてないでしょ。……あ、ここ硬い」
「あぁ、そりゃタコだろ。ラケット持ってると、どうしてもそこ硬くなんだよ。お前だって、ペンダコあるだろ」
「ペンダコって言うか……筆ダコ?」
 あるかなぁ、そんな言葉と笑いながら、マッサージをやめてヤスリを取る
 跡部は目を丸くした。
「それ、なんだ?」
「ネイルファイル……爪ヤスリだよ」
「あぁ?」
 跡部の眉間にしわが寄る。
「爪切りって、実はあんまり良くないんだって。爪の生え際に、すっごく衝撃が来るらしいよ」
「んなもんどうだって良いだろ」
「私が良くないよ」
 しゅっと、小気味良い音を立てて爪が削れていく。
 跡部はこれ見よがしに溜息をついた。
「………………で?」
「ん?」
「次、何されんだよ」
「甘皮取り……と言いたいところだけど、そのままオイルにいこっか。
 これねー、いい匂いするんだよ」
 が、マニキュアに良く似た小ビンを開ける。確かに、ふんわりといい匂いが跡部の鼻を擽った。
(……あぁ、これか)
 時折、湯上りの彼女がこの香りを纏っている。微かすぎるそれが香るのは、彼女の手が動く時だけだ。それぐらい薄く、そして普段あるのが苦にならない香り。
 これから自分は、彼女と同じ香りを纏うのか。跡部は、目の前で動くの手を注視しながら笑みを浮かべた。苦い、微かなものを。
(気付かれた時、何て言われるか)
 彼女との関係は表立ってのものではない。
 それでも、彼を取り巻く仲間――普段一緒につるんでいる、あのメンバーだ――は感づいているようで、ことあるごとに何やら聞き出そうとせっついてくる。
 だが、跡部としてはそんなことはどうでも良かった。
(そのときに、……何て言われるか)
 目の前の、このオンナが何と言うのか。
 想像すると、いつでも泣きそうになってくる。
(……らしくねぇな、この俺が)
 彼女に関しては、どうしても弱気にならざるを得ない。強く出られない、というか。
「……年下、か」
「え、何?」
「なんでもねぇよ。それよりさっさと終わらせろ」
 ふいっとそっぽを向き、立てた膝に頬杖をついて口許を隠す。

 年上の彼女の、泣きそうになって食いしばっているところなんて、見られたくなかった。




*−*−*−*−*−*−*−* 1年ちょっとぶりの更新が跡部ですよ、奥さん(ダレだ・笑)。
いや、ネタだけは相当あります。あるのですよ。

元々描写力ないんだから、ネタが尽きるまで足掻きましょう、うん。