雨の日。
州警察に呼ばれて、俺は遺品の確認に出掛けた。
「一応、これだけのものは見つかったんですが…」
飛行機の墜落事故というものは、とにかくモノがばら撒かれたり焼け焦げたりする。
「奥様のものは、ありますか?」
聞かれても困るというものだ。
彼女が移動時に持つものは限られているとはいっても…。
「多分…探してみなければわかりませんが」
乗員150名の荷物だ。似たり寄ったりの残り方をしていてわかりにくい。
1時間ほどもらって、探してみることにした。
もう一度 Act.2
見つかったものは、結構形が残っていた。
手荷物だけで移動することが多いは、恐らく持っていた全てのものを機内に持ち込んだのだろう。変に大きいのは愛用していたテニスラケット――真っ二つに潰されていた――位のもので、バッグは何故だか無傷に近かった。
「中身を確認していただけますか」
言われて、バッグを開ける。大したものは入っていない。
重要なものと言えば財布やパスポートぐらいのものだろうが、パスポートはあっても財布はない。
「…奥さんとケンカでも?」
若い警官がそんなことを訊いてきた。
「いえ、ただ故国へ先に帰そうかと…」
そう言ったところで、若い警官は年配の警官に思いっきり襟首を引っ張られ、罵倒された。
それはその2人のケンカに発展し、後はスラングの応酬だった。
「あの、すいません」
「はい?」
今度声をかけてきたのは、妙齢の女性警官。
「これに、見覚えありませんか?」
握っていた手を俺に見せるように挙げ、そっと開く。
その手にあったのは、はめるにはゆがみ過ぎた小さな指輪。
自分の左手にはまったそれと見比べて、俺は無言で頷き、受け取った。
「妻の、ものです」
「そうですか」
彼女は軽く会釈をすると、それ以上何も言わずに去っていった。
テレビをつけると、ニュース番組をやっていた。
内容はもちろん、飛行機事故。
…飛行機事故というものは悲惨だ。
乗員の命は絶望的で、しかも見つかったモノさえ判別が難しい。
確認された者だけが、「死亡者」として流れてゆく。
その中には、未だにのものはない。
彼女についてだけ言うならば、わずかとはいえ光明はあった。
が座っていたシートの横一列とその前後幾列かは、何故か生還率が異常に高かったのだ。
確認されている半数以上が意識不明の重体であるとはいえ、これは確かに希望だった。
次のトーナメントは、その希望にすがってでもいい結果を出したい。
無様に負ければ、はきっとこう言うんだろう。
いつもの様に、笑って。
『まぁったく、世話のかかるだんな様ね』
眠りに付くまでの数十分、俺は彼女を想って自分を慰めていた。
Act.2 End.