2月14日。
 それは、女の子の決戦の日。
 そして一部の人間には結構苦痛の日。
 ……テニス部部長、手塚も然り。
「朝練だけでもうそれ?」
 テニス部マネージャーの彼南は、恋人の手荷物を見て小さく溜息をついた。
「その中身って、全部チョコなのかな」
「中には別のものも混じってるみたいだがな……これはクッキーか」
 手塚は熱に弱いものだけを取りよけ、空いていた袋に詰める。
「チョコチップじゃん」
「………………」
 げんなりする手塚。
 彼南はもう1つ溜息をついた。
「どうするの」
「菊丸にやる」

 部活が終わる頃、手塚の態度は少しやさぐれていた。
「……すっごい仏頂面」
「うるさい」
 彼南がぼそりと言うと、手塚はうるさそうに背を向けた。
 彼南は愉快そうに笑う。
「流石の鬼部長もカタナシね。チョコレート攻撃で撃沈させられてるんだから、さ」
「……お前、楽しんでるだろ」
「当然♪」
「…………さっさと着替えろ。閉めるぞ」
 せめてもの反抗も、彼女の前では決まらない。
 彼南は未だに笑っていた。
 仕方がないと踏んだ手塚は、溜息をつくと恋人を放っておいて着替え始めた。
 彼南もそれに倣い、しばらくもくもくと着替える。
「あ」
 と、彼南が声をあげたのは、もうそろそろ帰るしたくも終わる頃。
「どうした」
「渡してなかったな、って……はい」
 手渡されたのは、小さめの平たい箱。
「リストバンド。無難だけど、使うでしょ?」
「あぁ。ありがとう」
 手塚の頬が緩む。
「忘れられたかと思った」
「忘れるわけないじゃん」
 照れたように笑う彼南。
 手塚の胸に、ふと悪戯心が湧き上がった。
「何か欲しいものでも?」
「へっ?」
「3倍返しが基本、だろ? 何かねだろうとでも?」
「んーん」
 ふるふると首を横に振る彼南。
 意外だな、と手塚は思った。
 しかしその次の言葉には……。
「だって、お互いまだ中学生じゃん。ねだったってタカが知れてるって」
 やっぱりちゃっかりものだ、と思った。
 少々憎らしく思うものの、可愛い彼女の欲しいものくらい買ってやりたい。
「……何が欲しいんだ」
「だから、良いってば」
「良いから。言ってみろ」
「でも……」
 散々せかされた後、彼南はようやく手塚に耳打ちした。
「……ペアリング」
「…………」
「だから、良いって言ったんだよ」
 確かに中学生のお小遣いで買えるような代物ではなかった。

 帰り道。
「ペアリングって、あんまり普及してないよね」
「そうだな」
 よっぽど欲しかったのか、彼南はそんな話題を振ってきた。
「何でだろ」
「やっぱり高いから、じゃないか?」
 首を傾げる彼南に、手塚は冷静に返す。
「シルバーでも?」
「良いものは5000を軽く超えるぞ」
「あ、そっかー……」
 手が届きそうにないその値段に、残念そうに彼南は唇を突き出す。
 しかし、そこでめげる彼女ではない。
 ふと立ち止まると、手塚に手を伸ばした。
「ねぇねぇ、手塚」
「何だ?」
 くいくい、と袖を引かれ、手塚も立ち止まる。
「2人の誕生日の真ん中でさ、ペアリング買わない? お金出しあって」
 名案が浮かんだ、とばかりに目をきらきらさせて見上げてくる彼南。
 さしもの手塚も困ったように笑う。
「あぁ、安いものならいけるかな」
「やった♪」
 はしゃぐ彼南。
 手塚は小さく笑い声を零すと、ふと貰った箱からリボンを取った。
 その様子に、彼南は不思議そうに首を傾げる。
「ん? 今開けるの?」
「いや、開けないが……彼南、左手を貸してくれ」
「良いけど……」
 すべらかな手。
 手塚はその手の薬指にリボンをくくりつけ、唇を落とした。
 ちゅ……と小さく音がなる。
「んなっ……!」
 真っ赤になる彼南。
 手塚はにやりと笑った。

「……予約席、だな」


 Fine.

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っきゃー、何とか間に合った!
せめて手塚だけでもと思って頑張りました!
さーて、他のやつらも書きましょうかね……ι

キスって言っても、「手に」キスですね。

 2005年2月13日